幻の非公開施設「マクセル史料館」を訪問!
〜 カセットだけじゃないぞ・秘蔵の文化財級お宝を堪能! 〜
マクセルと言えば、現在でも「UR」というカセットテープを販売してくれている、カセットファンにとっては大変ありがたい会社である。 このマクセルの「史料館」なるものが京都にあるらしいという噂はかねてから聞いていた。 その名前からして、同社の古くからの歴史に関する資料が保管されていて、中には文化財級のお宝もゾロゾロあるらしいのだが、一般公開されていないためネットでも情報が少なく、都市伝説のような幻の存在となっている(笑)。 そのような施設に一般人の館長がナゼ訪問できたかというと、温故知新のオーディオ情報誌「ステレオ時代」のS編集長から、マクセルのカセット特集の取材として特別に見せていただけることになったので同行しませんかとのお声がけをいただき、補助員としてくっついて行ったという次第なのである。 という訳で、今回の学芸部だよりは「ステレオ時代 Vol.22」(2022年12月24日発売)とのコラボ記事となっている。(←こちらが勝手にコラボしているだけです。なお、「ステレオ時代 Vol.22」は、残念ながら2024年6月30日を以て販売が完了したようです。) |
○ いざ京都へ!
時は2022年10月末の某日。朝から快晴の上天気。 期待に胸を膨らませ、久々に東海道新幹線に乗った館長は、まるで修学旅行生のようで、朝からテンション上がりまくせるである。 吉例となっている車窓からの富士山見学は、肝心の御大の所だけが雲にかくれていてちょっと残念。 |
新幹線からの富士山の景色と言えば館長的にはコレですな。
富士山とコーヒー、良く合いまくせる。
京都駅で編集長と待ち合わせ。 ちょっと話がはずれるが、京都駅の人の多さにびっくり( ゚Д゚)。外国人こそ少ないものの、大挙している修学旅行生や観光客(おそらく)で溢れかえっておりまくせる。飲食店は長蛇の列。危うく昼食を取り損ねるところだった。 ということで、そうこうしながらもマクセルの京都事業所に到着したのだった。 |
○ いよいよ「史料館」を訪問!
史料館
余りに神々しい光を放っていたため、心霊写真になってしまった(ウソ)。
「史料館」らしい雰囲気の良い建物である。 普段は閉め切りの状態のようで、案内をしていただいた広報の担当者さん「ちょっと古い臭いがするんですよねー」と言いながら扉を開けてくれた。 ・・・なるほど。しかし、それは史料館らしい、歴史を語る本物の資料が醸し出す香りであった(笑)。 |
中に入ってすぐ迎えてくれたのは、カンデンチロボットの「マクセルくん」 |
「昭和55年(1980年)春から約3年半にわたって、全国各地の店頭や広場などでチビッ子たちを相手に大活躍し人気を博した。左手のミットでボールのスピードが測定でき、右手で握力が計れる。測定結果は、目の部分にデジタル表示されるようになっている。」とある。 当時の館長は既にチビッ子ではなかったせいか、残念ながらこのロボットの記憶が全くない。スマソ この史料館は仕事関係で来訪した方にも見学してもらうことを目的とした施設であり、「マクセルが強みとする3つのアナログコア技術」(=「混合分散(まぜる)」「精密塗布(ぬる)「高精度成形(かためる)」)の紹介パネルが展示されている。 ちなみに、カセットテープにはこの3つの技術が全て使われていた。つまり、カセットは同社の真骨頂が発揮された製品だったという訳だ。 |
そして中に入ってみると・・・、広いスペースの壁に沿ってブースが並んでおり、部屋の中央には古い製造機械のようなものが置かれている。 各ブースは幅が1mほどで、製品のトピックごとに分けられ、概ね時系列で並んでいるようだ。 単なる資料の保管庫ではなく、さながらマクセルの歴史博物館のような設えになっている。 まず目に入ったのは日東電工時代の電池の展示。 マクセルと言えば「電池」を抜きにしては語れない。 古い物では、真空管式ポータブルラジオ用の電池が展示されている。真空管のB電源用なので、電圧が何と67.5ボルトもある! 昭和33年(1958年)に発売された「ジェムフォン」という当時世界最小のポータブルテープレコーダーの展示もある。 鞄に入る大きさで、電池で動くトランジスタ式である。マクセルのテレコが存在していた・・・とは驚きである。 価格は47,000円。今の価値にすると25万円くらいか。当時としては、今のi-phoneプロに匹敵するような最先端機器だったと思えば納得である。 さらにマクセルの意外な側面として、「電気カミソリ」(=シェーバー)の展示があった。 昔の日立の電気カミソリってマクセルがつくっていたのか! (以下、画像は展示を見ながら撮影したため、ゆがんでいたり、ケースのガラスの反射で見にくいものもあるが、館長の貧しい撮影技術の故である。ご容赦いただきたい。) |
磁気テープの展示は、カセット以前のオープンリールテープから始まっている。 昭和27年(1952年)から研究に着手。初期のものは磁性粉をベースのビニールフィルムに練り込む独自の「練込方式」でつくったもので、機械的強度の問題で普及には至らずだったらしい。 その後、塗布方式の開発に着手し、塗布精度の高い録音テープの量産化を開始した。 そして「放送局用Y規格テープの認定取得」。 「プロ用」「局用」として優れた品質が認められたのだった。 |
さて、いよいよお待ちかねのカセットテープの登場! まずは、マクセル最初期のカセット「C-60」「C-90」「C-120」のブース。 「C-60」が最も早く昭和41年(1966年)に商品化された。 カセットテープの規格そのものは無償公開されたのだが、販売するにはフィリップス社の品質認定を受ける必要があったようで、その規格に合わせるためテープの性能はもちろん、プラスチックのカセット本体ハーフを製造するための金型(写真右下)の精度を出すのに苦労したようだ。 カセットのテープは、「C-60」であってもオープンリールに比べるとかなり薄手で、1年後の1967年には「C-90」、その翌年に「C-120」というさらに超薄手の長尺テープを開発。いずれもマクセルが一番早かった。 |
次は、マクセルの音楽用カセットの代名詞「UD」のブース。 磁性体の微粒子化、新開発バインダー、塗布・鏡面化技術等によりカセットの高性能化の礎となったテープである。 初代と1970年代にロングセラーとなったおなじみの2代目、「UD」の元祖とも言える2世代の製品が展示されている。 |
右上奥(パッケージ)と左下(本体)が初代「UD」
中ほどにあるものと、右下の分解モデルが2代目
初代「UD」のテクニカルデータ
続いては「XL」シリーズのブース。 「XL」と言えば、マクセルの高級カセットブランドだが、ここでは、ちょっと耳慣れない「サンダーバード作戦」として紹介されている。 「サンダーバード作戦」というのは、「XL」シリーズの元祖である「UD-XL」の開発、特に画期的な本体ハーフ開発のコードネームで、当時の米国フォード社のスペシャリティー・カー「サンダーバード」の開発者の手によることからその名が付いたのだそうだ。 カセット本体ハーフの金型は「サンダーバードT金型」と呼ばれ、それからつくられるハーフは高精度で広窓、すり鉢状のハブ回り、表面のエンボス加工などの特徴を持つ画期的なハーフだった。 展示されている賞状は、昭和50年に日本ステレオグランプリ「技術開発特別賞」を受賞した時のもの。 |
ガラスケース内上左から「UD-XL」「UD-XLT」「UD-XLU」
左下は「サンダーバードT金型」
こちらのブースは、マクセル初のメタルテープ「MX」のもの。 マクセルは磁性体を自社で研究・開発していたそうで、メタルテープに使う純鉄の磁性体の耐蝕性をクリアし販売にこぎ着けた。 この「MX」のハーフにも「サンダーバードT金型」が使われている。 |
そして時代は1980年代へ。「UDU」が登場する。 初代「UDU」は、高価だったハイポジカセット初のエコノミー版。しかし、安っぽさを感じさせないダンヒルカラーのパッケージ。これは女性の利用を意識したものとされる。 当時人気絶頂の「ワム!」を宣伝に起用したこともあって、ユーザーの絶大な支持を得た。 |
手前の「UD1」「UD2」「METAL UD」は、1996年発売のモデル
そして、お待たせしました! マクセルカセットの頂点「Metal Vertex」のブース。 「テクノ・シルバー・バックコート」、3ピース構造「AMカセットメカニズム」「ゴールデン・エンブレム」などなど。マクセルが世界一を目指したカセットで、もちろんメタルテープ。 なお、このカセットについては、その開発秘話なども含めて「ステレオ時代 Vol.22」で詳しく特集されているので、ご興味のある方は是非ご覧いただきたい。 |
「Metal Vertex」
(手前右にあるのは「同時期に欧州で販売されていたハイポジカセット」とのこと。
「Metal Vertex」とは関係なく、いつのまにかケース内に鎮座していたとか!?)
↑こういうのいいすね。
館長も手持ちのカセットをこっそり置いてみたい(笑)。
史料館には、電池やカセットの他にも各種製品が展示されているので、ご紹介していこう。 |
オープンリール型ビデオテープ(左上)
Uマチック用ビデオテープ(右上)
ビデオカートリッジテープ(手前側)
初期のビデオカセット
(右下がベータマックス用でその他はVHS用)
S-VHS用のテープ
8oビデオテープ
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8インチのフロッピーディスク
(初期のパソコンで使ったのはこの大きさのFDだった。)
5インチのフロッピーディスク
(8インチに比べると扱いがぐっと楽になった。)
3.5インチフロッピーディスク
(そう言えばいつの間にか姿を見なくなった。)
MD(ミニディスク)
(カセットテープの敵(笑)だったが、今やほぼ絶滅種。)
また、資料館内には製品だけではなく、当時の製造機械類も展示されている。 |
電池製造用の「陽極合剤用配合機」(擂潰機)
左の石臼様のもので擂り潰して練り混ぜるらしい。
1950〜61年まで使用したとのこと。
磁気テープ裁断機(RTスリッター)
オープンリール用で1964年から使用。
磁気テープ塗布機械(1965年)
薄型テープの量産に活躍。
全厚12μmの国産第1号の「C-90」カセットを実現した。
磁気テープ裁断機(THスリッター)
テープ幅が狭く薄いカセットテープ用。1966年
カセット用巻換機(1966年)
リールに巻かれたテープを2〜3m/sでカセットのハブに巻換える機械。
巻換機を使った作業の様子
何と当時のカセットの製造は手作業だった。
↓その作業において、クランプ(テープをリールに固定する部品)を
ハブに押し込むための工具らしい。
カセット用の金型
左が本体ハーフ用で右がプラケース用
デモテープ用の録音機?
ビデオカセット製造機
カセット内にテープをセットする機械
フロッピーディスクをフォーマット(初期化)する機械
(5インチのディスク用)
最後に史料館の一角にある収蔵庫を見せていただいた。 おっ! 珍しいカセット発見! 「カラオケ 上級用テープ」とある。 古い物ではないようだが、見かけないテープである。 裏面の説明によると「微妙な音程や細かな息づかいまでも忠実に再生」「テープ審査に適した上級高音質テープ採用」だそうだ。 録音時間は往復10分。日本製でTypeT(ノーマル)のカセットである。謳い文句からすると「UR」ではなく「UD1」相当のテープを使っているのかもしれない。 |
ついでに、「Metal Vertex」のブースに展示されていたカセットも紹介しておこう。 ガラスケースから出していただき撮影した。 |
製品名は「SQ」(SUPER QUALITY)。3本組みのハイポジ用テープである。 「Metal Vertex」(1989年〜)と同時期にヨーロッパで製造・販売されていたモデルとのことだ。 |
○ 訪問を終わって
いやー、貴重品ばかりで大変見応えのある史料館であった。 ご対応いただいた広報の担当者さんはじめ皆様方には大感謝である。 マクセルという会社が、その軌跡を大切にしながら未来へ進んでいることがよくわかる施設でもあった。 この史料館こそマクセルのアイデンティティーそのものなのかもしれない。 それにしても、これだけの資料や施設を非公開のままにしておくのは勿体ない。 修学旅行生にはちょっと無理かもしれないが、京都見物ついでの年配者にはうけるかも(笑)。 冗談はさておき、手間や費用はかかるだろうが、何らかの形での公開(期間限定でも)をご検討いただけたらと思う。必要なら、懐かしのカセットテープ博物館のカセットをご寄贈させていただいても良いので。 よろしくおねがいいたしまくせる m(_ _)m” |
(本文の記述は、全て館長の個人的な感想に基づいています。)
(本記事はマクセル株式会社様の同意の下、撮影、掲載を行っております。)
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