最新のハイポジカセットを使ってみた
〜 久々に新品ハイポジションカセット出来! 〜
今回は最新カセットの使用レポートである。しかも、何と「ハイポジション用」(TypeU)のカセットなのだ。 といっても実は雑誌の付録で、その雑誌とは、館長もお世話になっている「ステレオ時代」の別冊で2021年12月に発売された「ステレオ時代 80s」(ネコ・パブリッシング刊)である。(本誌では館長が「ファンシー&おしゃれ系カセット」についての記事を書かせていただいたので、ご笑覧いただければ幸いである。) ただし、全てにこの付録が付いている訳ではなく、発行元のウェブショップで販売されている「スペシャルパック」にのみ付いているという、かなりレア物のカセットになっている。 製造終了により市販のハイポジ用カセットがほぼ絶滅してしまってから久しいが、ここで蘇ってくれたのはうれしいかぎりだ。 当博物館でもスペシャルパックを購入したので、今回の学芸部だよりではこのカセットの使用レポートをお伝えしようと思う。 |
○ 外観チェック
では、早速この新カセットの外見から見ていくことにしよう。 |
透明のプラケースに入っており、セロハンでキャラメル包装がされている。 薄くて透明なセロハンのキャラメル包装というのは、80年代というより70年代のカセットの雰囲気がして、館長的には大変嬉しい仕様でありツボにはまるところである(笑)。 インデックスカードは入っていないので、カセット本体が丸見えである。 |
使われているプラケース
プラケース自体はラウンドタイプでもスリムタイプでもない、80年代前半頃の標準だった角型のタイプとなっている。 |
カセット本体
カセットハーフも透明だが、内部のスリップシートはブラックで、クッション性を持たせるための折り目が付いている。 また、ハブやローラーにもブラックの部品が使われている。 パッドは大きめで、その裏には遮磁板が省略されずにちゃんと装着されている。 ラベルのデザインはA、B面共通で、80年代テイスト全開のもの。永井博氏デザインの雑誌の表紙にイメージを合わせた感じである。 |
カセット本体の背の部分
カセットハーフの背の部分にはTypeUテープ識別用のホールが空けてある。 ハイポジテープが市販されていない現在、この穴を開けるだけでも特注になってしまい、製造コストを押し上げることになったようだ。 |
リーダーテープ部分
テープ(磁性体)部分
リーダーテープは透明で、クリーニングの機能はなさそう。 磁性体の部分はハイポジらしい黒色のテープである。テープが黒いとそれだけで何だかいい音がしそうな気がする(笑)。 表面がピカピカしているので鏡面仕上げがされているようである。 |
○ 周波数特性とノイズレベル
次はテープの性能チェックである。 このテープについては、実はサンプル版の段階で性能測定をさせてもらっており、その結果は「ステレオ時代 Vol.19」で紹介されているが、ここでは、実際に雑誌の付録になったカセットであらためて測定してみた。 測定用のデッキは、サンプル版の時と同じくREVOXの「B215」を使った。 |
REVOX「B215」
まず、周波数特性をチェックする。 周波数特性の測定方法は、20〜20kHzのスイープ信号を録音再生することによって行う。 測定前に、デッキの「ALIGN」(=オートキャリブレーション)機能を使ってバイアス、レベル、録音イコライザの調整を行う。 最初は、-20デシベルでの録音再生結果である。 |
(グラフの縦軸目盛が実際より-10〜-20dB程度下がっていますが、これはパソコンへの最大入力が0dBを超えないように入力を絞っているためです。以下同様です。)
ややハイ上がり気味だが、20kHzまでクリアしている。 サンプル版はもっとフラットだったかなと思うが、もちろんこの特性はなかなかのものである。 次に、0デシベルでの録再結果はつぎのとおり。 |
中域にちょっと乱れがあるものの高音域はフラットである。15kHzあたりから下がっていくが、20kHzまで一応±3dBの範囲には収まっている感じである。
続いてノイズレベルである。 テープの未録音部分を再生してグラフ化した。デッキ自体のシステムノイズが載っているため、参考程度にご覧いただきたい。 |
全体的にノイズは小さい。 ヘッドホンを使って聴いてもノイズは大変少ない。 低域のノイズ部分は、デッキ自体のノイズの影響と思われる。 以上の測定結果より、このテープは、現状のカセットテープの製造環境から考えて、かなり頑張ってつくられた高性能なカセットだと言える。 |
○ 音楽を録音
それでは、いよいよ音楽を録音再生して聴き較べをする。 使用デッキは次の4台。 ・REVOX「B215」 ・SONY「TC-KA7ES」 ・Nakamichi「CR-70」 ・Nakamichi「DRAGON」 録音ソースは「グロリア・エステファン」のCDを使った。 これは、カセットの録音チェックに時々使用しているCDで、パーカッションの音の立ち上がりのシャープさとグロリアの歌声の艶やかさをどこまで再現できるかが聴きどころになる。 |
チェックに使用した「グロリア・エステファン」のCD
以下がその結果である。ただし、あくまで館長個人の感想なので、その旨ご了承願いたい。 REVOX「B215」 ソースとの音質差はほとんどない。 デジタルチックというか、全体的にすっきりとした音。強いて言うなら、パーカッションの入りのとんがり具合は優れているが、グロリアの歌声がややかさついた感じか。 SONY「TC-KA7ES」 これもソースとの音質差はほとんどない。 デッキの性能を存分に引き出している。聞き惚れてしまうような音。 Nakamichi「CR-70」 ソースとの差はほとんどない。REVOXやSONYとは違う音なのだが、「sourse」と「tape」を切り換えても差を感じないので、デッキのキャラなのだと分かる。ある意味ナカミチらしくない原音忠実の音である(笑)。 Nakamichi「DRAGON」 もう完全コピーという感じで「おそれいりました。参りましたー」のレベル。最高のカセット録音機「ドラゴン」のプレッシャーに負けずにその能力を引き出している。 ということで、なにやらテープの聴き較べなのかデッキの聴き較べなのか分からない感想になってしまった。 まあ、このクラスのキャリブレーション機能付きのデッキになると、性能の良いカセットを使えばほぼ原音と差が出ないように録音してくれるということがあらためて分かった(笑)。 それでも音に違いが出るのは、テープが原因ではなくデッキそのもののキャラクターの違いということになる。 言い換えると、このテープがその存在感をあまり感じさせずにデッキのキャラを活かしてくれたというのは、相当な能力を持っているということになる。 さらに、このテープはノイズが少なく、無音部分でもあまり気にならない。 鏡面仕上げのテープそのものが低ノイズなのかもしれないが、やはり70μsのイコライザーが効果を発揮しているのだと思う。この辺は、ノーマルとは一線を画すハイポジの威力ということになる。 また、音質とは直接関係ないが、このテープは走行音が驚くほど静かである。 早送りや巻戻し時もほとんど音がしないので、デッキの調子が悪くて動いてないのかと勘違いしてしまうほどである(笑)。 スリップシートの性能やローラー、ハブの精度が良いのだろう。 うーん。このテープ、見た目はチャラいのだが、相当な強者のようだ。 |
○ 粉落ちについて
サンプル版を試用した際、使用後に磁性粉と思われるものがヘッドに付着していたため、粉落ち(磁性体の剥離)がしやすいのではないかと心配していた。(といっても、まめにヘッドを掃除すれば何の問題もないし、ヘッドの掃除は基本中の基本である。) ところが、付録テープを使ってみるとほとんど粉落ちしない。 本番の方はバインダーを変えたのだろうか? よく分からないが、とにかく、これで粉落ちについては特段の心配をする必要はなくなったようだ。 |
○ まとめ
このテープが付録として付いている限定スペシャルパックは3,300円(送料別)、一方、雑誌のみの価格は1,620円となっている。 よって、単純計算では1本1,700円位のカセットということになり、出始めの頃のメタルテープもびっくりの価格なのだが、これでもほぼ原価らしい。 そもそもハイポジテープを製造するメーカーがないため、テストチェック用のテープをつくっているメーカーに特別に頼んで製造してもらったとのことである。 今、ハイポジテープを復活させようとすると、よほどの大量生産でもしない限り、こうなってしまうのが現実なのだ。 一般の録音用にはお勧めしにくい値段のカセットではあるが、趣味で録音を楽しむアイテムとしてはオススメである。 館長もそのお値段以上に十分楽しませてもらった。 |
(本文の記述は、全て館長の個人的な感想に基づいています(笑)。)
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