「stereo」誌の試聴室におじゃましました
〜「コラボ企画 ステレオ時代@stereo試聴室」に参加!〜
学芸部だよりの第9号は、オーディオファイルの皆さんならご存じの月刊誌「stereo(ステレオ)」(音楽之友社)と、話題の温故知新オーディオムック「ステレオ時代」(ネコ・パブリッシング)とのコラボ企画「ステレオ時代@Stereo試聴室」に館長が参加させていただいた、というお話である。 このコラボ企画は、「ステレオ時代」で取り上げられた機材などを「stereo」の試聴室に持ち込み、実際に音出しをして試聴するというもので、その模様は「stereo」の記事として掲載される。 今回は、(2019年)9月4日に発売された「ステレオ時代 Vol.15」に掲載されている「ハイレゾカセットの世界」にて紹介された倍速カセットデッキ、marantz(マランツ)「SD9000」とエルカセットデッキ、SONY「EL-7」が試聴用の機材に選ばれた。 「ハイレゾカセットの世界」では、この他に倍速カセットデッキであるTEAC「C-2X」と、エルカセットデッキTEAC「AL-700」も紹介され写真が掲載されているが、実は、全て当博物館から撮影用として提供させていただいたデッキのものである。 そして、試聴会においても当博物館のデッキを使っていただくことになり、機材の「保護者」という立場で館長にも参加のお呼びがかかったという次第である。 本稿は、この試聴会に参加した館長の感想や裏話(というほどでもないが)などを書き留めたものである。 試聴会そのものの模様については、(2019年)9月19日に発売された「stereo」10月号掲載の「高音質レアカセットの世界」に詳しいので、そちらをご購入の上併せてお読みいただければ幸いである。 ではここで、試聴会に使われた2台のデッキについて簡単に紹介しておこう。 |
マランツが1980年頃に発売したカセットデッキ。 コンピューター制御による自動選曲やランダムプレイ、カウンターリピート、内蔵時計によるタイマー録音など、機能てんこ盛りが売りの製品で、カセットデッキ屈指の押しボタン数を誇る(笑)。果たして、これを使いこなせた人はいたのだろうか?(館長は無理。笑) あまりの多機能さに隠れ、倍速機能はオマケのような存在感となっている。 3ヘッド構成で、コンビネーション型「SA」ヘッドを使用(ビクター「KD-A77」と同じものか?)。 当時のマランツのカセットデッキ最上位機だが、なぜか日本国内では販売されなかったようである。(しかし、日本製である。) この「SD9000」は、館長がアメリカeBayで入手したもの。 [主なスペック] ワウフラ: 0.05%(定速) 0.03%(倍速) f特: 25〜16kHz(ノーマル・定速) 25〜20kHz(同・倍速) 25〜20kHz(メタル・定速) 25〜23kHz(同・倍速) SN比(ドルビーOFF): 59dB(定速) 62dB(倍速) その他: バイアス調整可、フェリクロムポジション有 価格: US$900(ネット情報による) |
|
SONYが1976年に発売したエルカセットデッキ。 SONYが発売したエルカセットデッキの最高級機(価格的には、パネル色がガンブラックの「EL-7B」の方が6千円高い。)である。 コンパクトカセットより遥かに大きいエルカセットを使うデッキでありながら、コンパクトカセット用デッキとほぼ同じ大きさの筐体になっている。 3モーター、3ヘッド、クローズドループデュアルキャプスタン。 ヘッドは当時のSONYご自慢の「F&F」ヘッドである。 モーターや操作用のソレノイドはカセットデッキのものより2周りほど大きく、トランスポート部の機構はオープンリールデッキに近い。 テープスピードは9.5cm/sである。オープンリールだとハイファイとは言えないレベルになってしまうスピードだが、エルカセットはこのスピードに特化した設計をすることで、4トラック19cm/sと較べても遜色ない音になっている。 [主なスペック] ワウフラ: 0.04% f特: 25〜20kHz(ノーマル) 25〜22kHz(フェリクロム) SN比(ドルビーOFF): 62dB(フェリクロム) 価格: 198,000円 |
なお、「ステレオ時代 Vol.15」では4台の「ハイレゾカセットデッキ」それぞれの説明が掲載されているので、興味のある方はそちらをご購入の上でお読みいただければ尚幸いである(笑)。 ちなみに、これとは全く関係ないのだが、「ステレオ時代 Vol.15」に掲載されている「カセットテープ名鑑:メタル色の夜明け」では、今回館長が初めて原稿を書かせていただいた。さらに、博物館所蔵の「Scoth METAFINE」と「SONY METALLIC」を写真で使っていただいている。拙文で恐縮だが、ご興味のある方はこちらもご購入の上(くどい)ご覧いただければ尚々幸いである(笑)。 さてさて、いつものようにまた、前段の話が長くなってしまった・・・。 試聴会当日の話を始めよう。 8月も終わりに近い雨模様の日、いつもお世話になっている「ステレオ時代」S編集長の車で、機材と一緒に館長も運んでいただき、神楽坂にある音楽之友社に到着したのは、午後1時半過ぎであった。 試聴会は2時からの予定なので、少し早めではあったが、機材を試聴室に運び込む。 どんな試聴室なんだろうかー?? 興味津々の館長である。 案内されて、試聴室に足を踏み入れた。 おおおーー! 正面には、どおぉーーん、と「Fostex」の大型スピーカーがっ! |
試聴室に置かれているFostexのスピーカー
そして、その手前の「YAMAHA」製の超頑丈そうな造りのラックにはアキュフェーズのセパレートアンプが、どっっっしーーんと鎮座している!! |
アキュフェーズのプリアンプ(上)とモノラルパワーアンプ(下)
ヤマハ製ラックの使用感がプロの現場っぽい雰囲気を出している。
さすがだ・・・。 憧れのオーディオ誌の試聴室。雑誌記事のための試聴が行われるプロの現場である。 オーディオ誌の一読者に過ぎない館長としては、唯々感激である。 それだけではない。今日はこのシステムを使ってカセットデッキの音を聞けるのだ。生きてて良かったー\(^O^)/。 早速荷ほどきをし、重くて頑丈そうな「EL-7」を下に、軽めで賑やかなパネルの「SD9000」を上に、2段重ねにしてラックの上部に載せる。 |
2台のデッキを重ねて設置
電源は壁のコンセントから直に取ることができた。 「SD9000」は北米用の120V仕様なので昇圧トランスを経由させる。100Vでも問題なく動くのだが、120V動作の方が音が良くなる気がする(笑)。 続いて出力ケーブルを接続する。 「これでつないでください。」と、stereo編集部のNさんから渡されたのは、極太のRCAケーブルだった。 持ってみると、太めの電源コードのような重量感である。外周が布巻なので、思わず昔のコタツやアイロンのコードが思い浮かぶ(笑)。さらに、それを左右それぞれ1本ずつ使う。 プラグ部分は当然金メッキでガッチリした感じである。さすがだなー、と思いながら、普段の調子でデッキの端子に差し込もうとしたが、あれっ、入らない! 密着性を高めるために多少きつめにつくってあるのかと思い、ちょっと力を入れてみたが、それでも入らない! 何で?? 戸惑っている館長を見かねたNさんが一言、「プラグを回してください」。 なるほどー。プラグの先端を回すと開いたり閉じたりする仕組みのようだ。勉強になった。・・・こんな高級なケーブルを使ったことがない館長なのである。 |
ケーブル接続完了後の機器裏面
接続部分の拡大:極太のRCAケーブル!
ケーブルが無事つながったところで、軽く音出しをしてみる。 おーっ!! いいですねー。きれいで厚みのある音だー! 高級アンプとスピーカーの威力はさすがに凄い。これは楽しくなってきたー。 いずれのデッキも調子は良さそうである。製造後40年前後の古いデッキなので、ちょっとしたことで機嫌を損ねることがあるのだが、今日は大丈夫そうである。 そうこうしているうち、「stereo」のY編集長が試聴室においでになった。 いよいよ試聴会の始まりである。 まず、倍速カセットの試聴ということで、用意してきた録音済みのカセットを再生する。 聴き較べしやすいよう、いずれもA、B面に同じ曲を倍速と定速で録音してある。 具体的にどんなカセットかというと、次のようなものである。 |
試聴用に用意したカセット
@maxell「UR」 | 倍速にすると「XLU」並の音質に化ける(驚)。変化が分かりやすく実に興味深い。 |
AHIDISC | ダイソーで購入。定速では難あり(笑)の音だが、倍速でなら、まあまあ使える。 |
BCan☆Do | 以前に100円で購入。Aと違い、定速でもそこそこ使える。倍速で驚きの音質に。コスパ超高い(笑)。 |
CSONY「CDixW」 | エコノミー版だが、さすがメタル。定速でも良いが、倍速にするとさらに解像度と透明感が上がる。 |
DSONY「DUAD」 | 中古でかなり劣化しているものを再使用してみた。定速で使うと不満の残る音質だが、倍速にすると結構いける。これぞ倍速マジックである。 |
EBASF「REFFERENCE U」MASTER | カセット本体の正面(ヘッドやピンチローラーが入る部分)が別ユニットになっており着脱ができる。外した状態でSD9000のような全面透視型デッキで使うとヘッド周りのテープの動きがよく見える。音質比較というより、見た目がユニークなので持参した(笑)。 |
FTDK「MA-R」 | 当然だが、定速でも申し分のない音質。倍速では、さらに薄皮が一枚剥がれたような透明感とパンチのある音に変身。正にハイレゾカセット!! |
なお、上の右側のコメントは、テープ作成者である館長の私見である。試聴会におけるY編集長やNさんなどの感想ではないのでご注意を。 一通りお聴きいただいたところで皆さんの反応を拝見するに、倍速化の威力を実感いただけたようである。 「SD9000」はマランツ最上位の3ヘッド機であり、そもそもかなりの性能を持っているので、定速→倍速の音の変化をより繊細なレベルで表現していると思う。 化け方にはテープそれぞれに個性があり、その変身ぶりを楽しむのも倍速カセットの醍醐味である。 個人的には、羊がオオカミに変身するかの如きノーマルテープの化けっぷりが特におもしろいと思う。 |
続いては、エルカセットの実演である。 用意したカセットは、ノーマル「SLH」とフェリクロム「DUAD」の2種類である。 それぞれ2本ほど聴いていただいた。 |
エルカセットのテープ
皆さん、エルカセットの音を聴くのは初めてと伺っている。 「SD9000」の後なので、コンパクトカセットの音との比較ができたのではないかと思う。 エルカセットがコンパクトカセットの音と決定的に違う点は「安定感」。これは皆さん同意見であった。 テープスピードは倍速カセットと同じだが、トラック幅が約2倍もあるので音の安定性がまるで違う。 低音のエネルギー感も優っており、全体的にコンパクトカセットより迫力のある音になっている。 その音は、「カセット」というより「オープンリール」に近い。 |
気が付けば、2時間以上が過ぎていた。 いやあー、ハイレゾカセットは実におもしろい! 皆さんとカセットの話ができたのも大変楽しかった(*⌒▽⌒*)。 そして何より、試聴室にある最高のシステムの音は、聴いていると全く時間を忘れてしまう。 余韻に浸りつつ、撤収作業を行い、そして試聴室を後にした。 両デッキとも最後まで調子よく動いてくれたし。よかった、よかった。 最後になるが、持参したカセットに収録されていたアーティストを紹介しておこう。 全てCD音源で、普段カセットデッキの録音テスト用に使っているものからチョイスした。 ・ クリスティーナ・アギレラ ・ ドナルド・フェイゲン ・ ガゼボ ・ グロリア・エステファン ・ マドンナ ・ ポール・モーリア ・ 宇多田ヒカル ・ 高木麻早 ・ 西島三重子 館長自身としては好みの曲なので最高に気分が良かったが、他の皆さんの嗜好には合わず苦痛だったかも知れない。大変失礼をば致した(笑)。 |
御 礼
このたびは、Y編集長はじめ月刊「stereo」編集部の皆様や「ステレオ時代」S編集長には大変お世話になりました。この場を借りてあらためてお礼申し上げます。 またこういう機会をつくってくださいー m(_ _)m オネガイシマス |
(本文の記述は、全て館長の個人的な感想に基づいています。)
このページのTOPへ