からくり仕掛けでくるりんぱっ!
見ていて飽きないオートリバース機!
○このデッキの特徴
本製品は、アカイ初期のオートリバース機能付きカセットデッキである。 1960年代半ばに登場したカセットテープは、従来のオープンリールに較べて手軽に扱えるという利便性が最大の特徴であったことから、当初はその特徴を最大限アピールした可搬型の小型テープレコーダーが主力製品であった。 60年代末には据置型のステレオカセットデッキが登場し、音楽録音・再生用としてもカセットが普及していくことになるが、その際も、カセットの特徴を活かし手軽に長時間自動演奏を可能にする機能を搭載した製品がいくつか登場していた。 その機能としては、大きく2種類あり、1つは複数のカセットを連続演奏するオートチェンジャーであり、もう1つが本機の最大の特徴となっているオートリバースである。 オートリバース自体はさほど難しい技術ではなく、センサーを使ってテープの終端で走行方向を自動的に逆転させ、録再ヘッドの使用チャンネルをテープの走行方向によって使い分けることで実現できる。 オープンリールデッキの製品は以前から存在し、カセットデッキ初のオートリバース機とされるSONYのTC-2300は、この方法でオートリバースを実現している。 しかし、この方法は、ヘッドのチャンネル特性やテープのヘッドタッチが正逆方向では微妙に異なるため、A,B面で音質が変わってしまうという問題がある。 特に、テープスピードの遅いカセットの場合はこの影響が大きくなるため、ヘッドの加工精度やヘッドタッチを正逆両方向で厳密に管理する必要があった。 高音質なオートリバースを実現させるためには、この問題は避けて通れない。 では、本製品はどのように対処しているのか? 何と!、カセットそのものを機械的にひっくり返すという大技を使っているのである! まあ、考えてみると、テープの走行を反転させる方法として、カセットをひっくり返すというのは至極当たり前の話である。 むしろ、1980年代以降のオートリバース機で普及した、回転ヘッド方式の方が逆転の発想とも言える。 ヘッドを回転させる、つまり、カセットをひっくり返す代わりにメカニズムをひっくり返していることになるが、この方法であれば、正逆方向とも同じヘッドを使うことになるので、上記の問題は起きにくい。 しかし、ヘッドを高精度で180度回転させる必要や、正逆方向用のキャプスタンや消去ヘッドも必要(録再ヘッドと一緒に消去ヘッドも回転させるものもある)なため、どうしてもヘッド周りや走行系が複雑になってしまう。 本製品の場合は、カセットそのものをひっくり返すので、そのための機構は複雑だが、ヘッド周りはワンウェイデッキと全く同じで、至ってシンプルになっている。 前置きが長くなった。 では、カセットをどのようにひっくり返すのか。その様子をご紹介しよう。 再生または録音中にテープが終端で停止すると、カセットホルダーが少し持ち上がり、スルスルッと後方(ヘッドと反対側)にある金属ドラムへ移動し、コの字型をした受け金具にカセットが収まる。 この受け金具はドラムの中で回転するようになっており、カセットが入ると180度回転して、A,B面を入れ替える。 反転したカセットは、今度はスルスルッとヘッドの方へ運ばれていき、カチャッと定位置にローディングされ、再生または録音が再開される、という仕組みである。 動作は実にスムーズで、何回見ても飽きない。リバース機構の部分を覆っているスモークのプラスチックカバーを取り外すと、リバースの動きをつぶさに観察することができる。 |
(機構上部のカバーをはずした状態で撮影しています。)
* デッキの後方側から撮影 *
よく見ると、カセット停止→ヘッド・ピンチローラ後退→カセット持ち上げ(録音の場合は、オートリバースボタンリセット)→後方へスライド→カセット裏返し→前方へスライド→定位置へローディング→再生(録音)開始、というきめ細かい動作が自動的に行われていることが分かる。 これらの一連の動作は、メインモーターの回転を動力源としてギアなどを使って実現しているため、内部は結構複雑なメカニズムになっているようである。 アカイは、このリバース機構を「INVERT-O-MATIC」(インバート・マチック)と呼んでおり、「CS-55D」という機種で初めて採用した。 「○○マチック」というのは1960〜70年代に流行ったネーミングで、当時のハイテクな機構や仕組みにはよく付けられたものである。 本製品は、テープ終端部でのオートリバースだけではなく、任意の位置での手動リバースも可能である。 |
(左:オートオリバース 中:手動リバース)
スイッチ手前側の表示が一部はがれて「T-O-MATIC」になってます(笑)
また、オートリバースは録音、再生いずれでも可能だが、録音の場合は1回リバースすると自動でオートリバースボタンが解除されるため、1往復のみとなり、重複録音されることはない。 再生の場合にはボタンが戻らないので、ストップボタンを押すまで際限なく往復することになる。 これだけの機構を内蔵していることもあって、本製品は大きくて重い。当時のカセットデッキとしては巨大だと言っていい位である(笑)。 ちなみに、このカセットそのものをひっくり返すリバース方法は、後年のナカミチも採用している。(RX-202、RX-505) ナカミチの場合は、回転ヘッドによるアジマスずれを嫌ってのことのようだが、コンポスタイルのデッキで「くるりんぱっ」を実現しているところがスゴイ。 参考にRX-505のリバース映像をお見せしよう。結構動作が早いので、お見逃しないように(笑) |
* ナカミチ「RX-505」のリバース動作 *
(このデッキのヘッドは上側に付いています。)
このナカミチ機のご紹介は、いずれ、そのうちに(笑)。 このように、本製品最大の特徴はオートリバース機構であるが、その他の特徴の1つとして、本製品にはステレオ・パワーアンプが内蔵されている。 別売のスピーカーをつなげれば、アンプ不要で音楽再生が楽しめる。 |
* 再生用の音量調整ボリューム(左)とトーンコントロール(中) *
本製品が発売されたのは、ようやくシステムコンポが普及し始めた頃で、それまでステレオと言えば一体型のアンサンブルステレオかスピーカー部分だけ分離しているセパレートステレオが主流であった。 デッキの場合、既にステレオセットを持っているか、高価なシステムコンポを組まないと使えない。(安いステレオセットでは、デッキを接続する外部端子の無いものもあった。) ということで、当時は、単体でテープステレオが楽しめるアンプ内蔵のデッキに対する需要があり、珍しくはなかったのである。 |
* 別売のAKAI純正スピーカーと付属のマイクロホンを接続‥
おお、カッコイイではないか!! *
しかし、正確に言うと、本製品はカセットデッキではなくカセットレコーダーということにはなる。 なお、型番の違う「GXC-65D」の方はアンプレス(=カセットデッキ)である。 その他にも、本製品にはGXヘッド(グラス&クリスタルフェライトヘッド)やA.D.R.システム(いずれも、AKAI「GXC-760D」の項で詳述)、ドルビーNRシステムが搭載され、登場したばかりのクロムテープの使用も可能であるなど、当時としては高級仕様の製品となっている。 |
* GXヘッドとドルビーシステムの表示が誇らしげである *
○操作性
パネルの右手前側に3つ並んでいる黒いボタンの一番右にある電源スイッチを押すと、メーター部の照明が点灯し、内部のACモーターも回転を始める。 カセットの挿入口の手前に貼ってあるシールの絵に描いてあるように、テープ面を手前側にしてカセットを挿入する。 カセットを押し込むと、ホルダーごとガチャッとヘッドの位置まで下がる。 |
* カセットを挿入するところ *
* カセットをローディングした状態 *
テープセレクタのスイッチを使用テープに合わせる。 クロムテープが登場して間もなかった製品なので、セレクタスイッチはローノイズ(ノーマル)とクロムを切り替えるだけの2択スイッチである。 次に録音レベルを調整する。 「REC」ボタンを押すと赤いランプが点灯し入力レベル調整ができるようになるので、「REC LEVEL」のつまみで調節する。 レベルメーターは、この当時の製品としては大きめの左右独立型で、本格的な目盛の付いたVUメーターである。 |
* 上:レベルメーター 中左:テープセレクタ 中右:ドルビースイッチ 右下:録音レベル調整ボリューム *
続いて録音開始ということになるのだが、その前に、オートリバース録音をするのであれば、「AUTO REVERCE」の「AUTO」の方のボタンを押し込んでおく。これで、カセットのA,B面に自動的に連続録音ができる。 録音開始は、録音ボタンを押しながら「PLAY」ボタンを押す。緑色のランプが点灯し、テープの走行が始まる。 |
* 操作スイッチ部分 *
(PLAYボタンは動作中でもロックされない)
本製品の操作ボタンは、ピアノキー式のスイッチになっている。 いずれも軽く押すだけで動作するが、特に「PLAY」ボタンは軽く、しかも押し込んだ後にロックされずに戻ってしまうため、ボタンが壊れてしまっているのではないかと思うほどである。 テープが終端になるとオートリバースされる。 クイックリバースとはいかないが、流れるようなスムーズな動きで、オートメーションの機械を見ているようである。 リバース動作と同時にオートリバースの「AUTO」ボタンが自動的にOFFの状態にリセットされる。 B面の録音が終わると、オートストップがかかりテープは停止する。 再生オートリバースの場合は、リバースの「AUTO」ボタンはリセットされず、ストップボタンを押さない限り、何回でも両面の再生を続ける。 また、「MANUAL」のリバースボタンを押すと即座にリバース動作を始めるので、動作の鑑賞をするには大変都合がよい(笑)。 なお、前述のとおり、本製品はアンプを内蔵しているため、スピーカーを直接つないで再生音を聞くことができる。 スピーカーは、デッキの横にあるフォンジャックに接続するようになっているので、接続・取り外しは至って簡単であるが、専用ケーブルを使うかプラグ付きケーブルを自作する必要がある。 |
* デッキ側面の端子パネル:一番左側のジャックが外部スピーカー接続端子 *
本製品については、アンプを内蔵しているので、スピーカーを直接つなげて聴いてみることにしよう。 用意したのは、当時のアカイ純正別売品だった「SW-35」というバスレフ方式のスピーカーである。 接続プラグ付きの付属コードを使えば簡単につなげられる。 再生してみる。 一言で言うと、大変明るい音である。 フェライトヘッドであるGXヘッドの音の傾向かも知れない。 GXヘッドの摩耗が少ないということもあるかも知れないが、輪郭のはっきりしたカチッとした音を聴かせてくれる。 それでも、耳に突き刺さるような音ではないので、長時間聴いていても聴き疲れするようなことはないだろう。 さすがにデッキの専門メーカーである。 オートリバースという利便性だけの製品ではなく、デッキとしての性能はきちんとおさえた製品作りをしていると思う。 しかも、メカニズムを含めて、40年以上経っても(100%ではないかも知れないが)その性能を維持しているというのは、何とも素晴らしいことではないか。 なお、LINE OUTからの音を聴いてみても同様の傾向なので、内蔵アンプはクセのない素直な音質のようである。 |
* 試聴中(笑) 後方のスピーカーが「SW-35」 *
カセットテープの登場でテープ新時代の幕開けとなった頃、各社ともこの新世代テープの可能性に夢を求めていたと思う。 本製品のオートリバース録音・再生というのも、その夢を「利便性」というアプローチで実現したものであった。 しかしながら、本製品以後の1970年代のカセットデッキは、各社とも利便性よりオープンリール並みの音質を追求する方向に流れ、ワンウェイデッキが主流となっていった。 音質追求が一段落した1980年代になって、ダブルオートリバースやミュージックサーチなど利便性の追求に再び熱が入ることになる。 便利で見た目も楽しく、音も良い。 本製品は、高度なからくり人形のような機構と高品質な電子回路を併せ持つ、大変に日本的な製品だったと思う。 大袈裟かも知れないが、こういうものは日本の産業遺産として残しておきたいものだと思う。 なお、本製品の姉妹機として、通常ヘッドを使用した「CS-50」もあった。 |
* CS-50 *
○機 能
・録音・再生オートリバース、マニュアルリバース ・クロムテープ切替スイッチ ・GX(グラス&クリスタルフェライト)ヘッド ・A.D.R.システム ・ドルビーノイズリダクション(Bタイプ) ・マイク入力端子 ・ステレオアンプ内蔵 |
* デッキ側面 *
○スペック
・ヘッド:録再(GXヘッド)×1、消去×1 ・モーター:ヒステリシスシンクロナスアウターローター型ACモーター×1 ・SN比:50dB以上(58dB ドルビーON) ・周波数特性:30〜16,000Hz(ローノイズテープ) 30〜18,000Hz(クロムテープ) ・ワウ・フラッター:0.12%以下 ・ひずみ率:2%以下(1kHz,0VU) ・消去率:70dB以上 ・クロストーク:25dB ・バイアス周波数:61kHz ・入力:MIC 0.4mV(4.7kΩ) LINE 50mV(200kΩ) DIN 7mV ・出力:LINE 775mV(0VU,20kΩ以上) DIN 0.4V ヘッドホン 30mV(8Ω) スピーカー 6W(8Ω)×2 ・使用半導体:トランジスタ×46、FET×2、IC×2、ダイオード×40 ・消費電力:50W ・寸法:415(W)×180(H)×290(D) ・重量:10.1s ・価格:78,000円 |
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