魅惑のオートローディング機構
ギミックが楽しい、AIWA初のコンポ型デッキ!
(注)↑このデッキの足は付け替えたもので、純正ではありません。
○このデッキの特徴
カセットデッキ展示館で初めて取り上げるAIWA(アイワ)のデッキは、1975年に発売されたアイワ初のコンポ型デッキである。 |
* 当時の広告 *
「コンポ型」というのは、アンプやチューナーなどと重ね置きができるように、テープのローディングや各種操作を全て前面で行えるようにしたスタイルのデッキである。 1970年代前半までは、上面で操作する「水平型」と呼ばれるデッキがほとんどだったが、70年代中頃以降は「コンポ型」が圧倒的主流となっていった。 本製品は「コンポ型」ではあるが、トランスポート部分は「水平型」になっており、テープはデッキ内部で水平に近い斜めにローディングされる。 これは、コンポ型デッキが出始めた頃に見られた方式で、デッキ用の高性能な垂直ローディング式メカを開発するまでの暫定措置として、従来の水平型デッキのメカを流用したためだと思われる。 しかし、このタイプは、テープをセットする際にはデッキ内に手を突っ込まなくてはならず、また、動作中のカセットの様子もチェックしにくいなど使い勝手に難がある。 これらの難点を克服するため、本製品では二つの工夫がされている。 一つは、本製品の最大の特徴である「オートローディング」機構である。 これは、カセットのキャリアにテープを載せて軽く押すだけで、キャリアに乗ったカセットが自動的にデッキの内部に移動しローディングされるという仕組みである。 そして、もう一つの工夫は、ローディング後のカセットが完全な水平ではなく、手前側に約30°傾斜していることである。これにより、ラベルの記載やテープの残量確認が容易に行えるようになっている。 それでは、それらの工夫を具体的に見ていこう。 カセットリッドのドアを開けた状態は下の写真のとおりで、中央にあるのがオートローディングのための「キャリア」である。この「キャリア」に手前の方からカセット差し込む。 |
* リッド内の中央にあるのがキャリア *
* キャリアにカセットを載せた状態 *
カセットをキャリアに載せた状態でドアを閉めるか又はカセットを少し奥に押すと、ローディング用のモーターのスイッチが入り、その力でキャリアが自動で奥へ移動し、最後にヘッド正面に落とし込まれてカセットをローディングさせるというものである。 落とし込まれる時に、リッド奥の左右にあるレバーがカセットを上から押さえるようになっており、このレバーがカセットをホールドしてがたつきを防ぐ仕組みになっている。 カセットは水平ではなく、奥側が若干高くなるよう斜め30°の角度でセットされ、さらに、リッド内部の上下には照明が付いているので、ローディングされたカセットのラベルやテープの残量確認がしやすくなっている。 |
* ローディングされた状態のカセット *
下図はその模式図(横から見た図=左側がフロントパネル面)である。 キャリアに載ったカセットは中央上に取り付けられたローディングモーターの力で右側(デッキ内部)へ移動し、最終的にヘッドの正面部分に落とし込まれる。 |
* オートローディング機構の模式図 *
(画像をクリックすると拡大されます。)
なお、テープを取り出す時にはモーターの動力は使われず、イジェクトボタンを押すことによってキャリアの手前側が持ち上げられ、ロックが外れるとキャリアに乗ったテープが坂を滑るように手前側にスライドしてくる仕組みになっている。 カセットのローディングやイジェクトの動作については、次の動画を見ていただくと分かりやすいだろう。 後のビデオデッキやCDでは当たり前となったオートローディングだが、当時のこの機構は画期的だった。 その他、本製品の特徴として挙げられるのは「テープランニングインジケーター」だろうか。 |
* テープランニングインジケーター *
これは、テープの動き(実際はテイクアップリールの回転)に合わせて、黄色い光が左右に動くようになっているものである。 リッド内を斜め上から見ればテープの回転状況は見えるのだが、正面からだと若干目視しづらいために設けられたのだろう。(実は単なる販売戦略上のギミックかもしれない。笑) こう書いてくると、何だかギミックだけのデッキのように思われるかもしれないが、そうではない。 FGサーボモーターと大型フライホイールの採用によるワウフラ0.07%、フェライトガードヘッド使用、周波数特性が30〜17,000Hz(クロムテープ)など、同時期の中堅クラスのデッキとしてはトップクラスの性能を持った実力派のデッキでもあった。 ギミックだけで終わらないところがAIWA製品らしい特徴と言えるかもしれない。 |
先述のとおり、本製品はAIWA初のコンポスタイルデッキで、全ての操作がフロントパネルで行えるというのが当時の宣伝文句であった。 そのフロントパネルのレイアウトだが、左半分がトランスポート系、右半分がオーディオ系の操作部となっており、操作レバーやノブなどの配置も無理や無駄がなくすっきりとまとめられている。 あまりにも上手くまとまっているので、パネルに若干余白部分が多くなっているきらいがある(笑)。 本製品のパネルレイアウトは、その後の同社のカセットデッキの原型とも言えるスタイルとなった。 |
* フロントパネル *
では、実際の操作を始めよう。 まず、電源を入れる。 四角い電源ボタンはパネルの左上にある。表面に円形のくぼみが付いており、指がかりが良い。 なお、中央部分の小さい赤い四角はペイントで、この部分が光ったりする訳ではない(笑)。 |
* 電源ボタン *
電源が入ると、左右のメーター、テープランニングインジケーター、リッド内の各照明が点灯し、パネル面が賑やかな印象になる。 テープをセットするためにカセットリッドのドアを開ける。 ドアオープンのボタンはドアの下に並んでいる操作レバーの一番左にある。ドアはオイルダンプされているので、レバーを押し下げるとするっと開く。 |
* 操作レバー *
カセットのローディング手順は前項で説明したとおりで、軽快なオートローディング方式である。 ローディング後のドアは開けたままで構わない。開いている方がカセットの視認性は良いが、スモークの入った透明のドアを閉めると、内部のライトに照らされたカセットがまるで美術館の展示品のような雰囲気で見える(笑)。 |
* ドアを閉めると独特の雰囲気が醸し出される *
次に録音の準備にかかる。 まず、各種セレクタを設定する。 セレクタ類のスイッチはパネル中央下部にまとまって配置されている。 |
* セレクタ類 *
左から「INPUT SELECTOR(入力切換)」「DOLBY NR」「BIAS」「EQ」である。 入力切換はライン又はマイク・DINのいずれかを切り替えるもので、ラインとマイク(DIN)のミキシングはできない。マイク録音する場合は、電源ボタンの下にあるマイクジャックにマイクをつなぐ。 入力切替スイッチの左にあるのは、DIN規格仕様のライン入出力ジャックである。 同じものがバックパネルにもあるが、こちらの方はダビングなどで別のデッキを一時的に接続する場合に便利である。 DIN端子からの入力を使う場合は、入力切替スイッチを下側(MIC/DIN)にする。 バイアスとイコライザのスイッチは、それぞれフェリクロムテープが使える3段切換となっている。 続いて、録音レベル調整をする。そのためには録音スタンバイ状態にする必要がある。 まず、操作レバーの一番右にあるポーズボタンを押し下げる。 次に、録音ボタンと送りボタンを同時に押し下げロックさせる。 これで、録音スタンバイ(ポーズ)状態となる。 この時、カセットリッド内の左にある赤い「REC」ランプが点灯する。 |
* 録音スタンバイ状態(RECランプ点灯) *
この時代らしく、操作はソフトタッチのボタンではなくピアノキー式のレバーである。 この方式は、レバーのストローク、つまり手動力によって内部の複雑な機構を動かしているため、力を入れて押さないと機能しないものが多い。 しかし、本製品は驚くほど軽い力で動作する。レバーを押し下げて最後にカチッとロックされる直前には引き込まれていくような感じさえするほどである。 この辺は、カセットテレコの経験豊富な同社のノウハウが生きているのだろう。 ところで、写真を見てお気付きかと思うが、操作レバーの下に棒のようなものがある。これは「操作ボタンバー」というものらしい。 SONYのカセットデンスケなど可搬型デッキに取り付けられ、おしゃれな感じもあって一時期ちょっと流行したものだが、据置型でこれが付いているのは珍しい。 可搬型デッキの場合は縦置きや不安定な状態で使う場合も多く、ボタンとバーを2本の指でつまむようにしたほうが力が入れやすく確実に操作ができる。また、屋外使用の際にバーがボタン類をガードするという役割もするのでその存在意義は大きい。 しかし、本製品の場合はどうだろう? 据置型であるし、ボタンは下へ軽く押せばよく、つまんで力を入れる必要はない。操作ボタンをガードする必要性も薄い。 とすると、これは装飾と考えるべきだろうか? さて、録音スタンバイ状態にすると、録音レベルの調整が可能となる。 録音レベルの調整は、レベルメーターを見ながらパネルの右端にある調整ボリュームで行う。 レベルメーターは左右独立したVU型で、目盛りは-20VUから+6VUとなっている。カセットデッキのメーターとしては大型で視認性がよいので、レベル確認がしやすい。 左右メーターの間にはピークレベルインジケーターがある。 インジケーターは3dB(黄・下)と7dB(赤・上)の2ポイントである。 なお、各メーターの下にある穴はメーターアジャスト用である。メーターの0ポイントがずれた場合にドライバーを突っ込んで調整するためのものだが、通常は(と言うか、ほぼデッキが粗大ゴミになるまで1回も)使うことはないので、パネル面の淋しさを補う飾りの要素が大きいのではないかと思う(笑)。 |
* レベルメーターとピークレベルインジケーター *
(各メーター下の黒く丸い部分がアジャスト用のホール)
録音レベル調整ボリュームは、直径のほぼ等しい金属ノブが手前側(R-ch用)と奥側(L-ch用)に付いているが、左右一緒に回るためマスターボリューム的に使える。左右のバランスを変えたい場合は片方を押さえながら回せばよい。 ボリュームノブの直径は大きく微調整も容易である。また、周囲にスイッチなどの突起物がないため回しやすい。 |
* レベル調整用ボリューム *
調整を終え、録音を始めるにはポーズボタンを押してポーズを解除する。 録音が開始されるとテープランニングインジケーターの光も左から右に流れ始める。 テープを止めるのはストップボタンであるが、ストップボタンはイジェクトボタンと兼用になっている。 テープが動いている場合はストップボタンとして働き、動いていない場合はイジェクトボタンとして機能するようになっている。 これは、本製品だけではなく、この時代のAIWAのデッキに共通した仕様である。 兼用させると内部の機構がより複雑になると思うのだが、これもボタンの配置やスペースに制約のあるラジカセの設計思想と相通じたものなのかもしれない。 |
○音質
素直な音のデッキである。 誇張や味付けを極力排除し、自然な音を目指しているといった感じである。 先にも述べたように、このデッキには「フェライトガードヘッド(FGH)」が使われているが、このヘッド、見た目はSONYの「F&F」ヘッドにそっくりで、どうやら同じものらしい。 |
* AIWA「FGH」ヘッド(左)と SONY「F&F」ヘッド(右) *
しかし、本製品の音はSONYのデッキの音、明るく元気ないわゆる「ソニーサウンド」とは違う。柔らかい聴き心地の良い音である。 同じヘッドを使っていたとしても随分と傾向の違う音になっている。回路設計の考え方が違うのかもしれない。 80年代のCD対応の3ヘッド機とは違い、明らかに角に丸みを持ったマイルドな音ではあるが、それが返ってカセットらしい良い音になっており、聴いているうちに引き込まれていく・・・。 発売後40年以上経った1970年代中頃のデッキである。100%の性能を維持しているとはとても思えないが、当時の2ヘッド中級機の優秀さに驚かされる。 この時代(1970年代中頃)から80年代初頭くらいまでのカセットデッキは、オープンリールに近づこうと激しい性能競争を繰り広げていたが、それがカセット独特の音の良さを引き出すことにつながっていた・・・。そう感じさせる音である。 |
○まとめ
実は、このデッキに館長は特別な思い出がある。 遙か昔の学生時代、新たにカセットデッキを購入しようとした時、このデッキは最終候補の一つだった。 結果的には、当時発売されたばかりのSONY「TC-4300SD」を選んでしまったのだが・・・(笑)。 オートローディングというギミックに対しては最後まで後ろ髪を引かれる思いであった。 館長は「ソニーサウンド」が結構好きなのだが、もし、あの時にこちらのデッキを選んでいたら違う好みになっていたかもしれない・・・と、このデッキの音をあらためて聴いて思ったのだった。 ギミックで関心を呼ぶだけではなく、実は高性能でもあるという「Craftsmanship AIWA」らしい製品の一つである。 |
○機 能
・ | カセットオートローディング機構 |
・ | タイマースタンバイメカ |
・ | フェライトガードヘッド |
・ | バイアス・イコライザ独立3段切換方式 |
・ | +3dBと+7dBの2ステップピークインジケーター |
・ | ドルビーシステム |
・ | ホールIC使用無接点式フルオートストップ |
・ | メモリーカウンター |
・ | クイックレビュー・キュー |
・ | ダビング用前面DINジャック |
・ | オイルダンプ式カセット蓋オープン |
・ | テープランニングランプ |
・ | テープ照明ランプ |
・ | 再生ボリューム |
・ | マイク入力 |
* リアパネル *
○スペック
・ | ヘッド:録再(フェライトガードヘッド)×1、消去×1 |
・ | モーター:FGサーボモーター×1 |
・ | 周波数特性:CrO2 30〜17,000Hz、FeCr 30〜17,000Hz、LH 30〜14,000Hz |
・ | SN比:64dB(FeCr、ドルビーON) |
・ | ワウフラッター:0.07%(WRMS) |
・ | 入力:マイク 0.25mV(200〜10kΩ)、DIN 0.1mV/kΩ(3kΩ)、ライン 50mV(50kΩ以上) |
・ | 出力/インピーダンス:LINE 0.775V(50kΩ以上適合)、DIN 0.775V(50kΩ以上適合)、ヘッドホン 8Ω |
・ | 使用半導体:1IC、2FET、41トランジスタ、33ダイオード、4LED |
・ | 消費電力:12W |
・ | 寸法:450(W)×162(H)×300(D)mm |
・ | 重量:8.5kg |
・ | 価格:69,800円 |
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