マクセルの新カセットを使ってみた
〜 リアル70年代「UD」と再現「UD」を比較試聴! 〜
今回は新規カセットテープの使用レポートである。 どんなカセットかというと、音楽之友社から発行されている月刊オーディオ情報誌「stereo」(ステレオ)2019年11月号の付録で、マクセルが新規開発した「UD60FM」というテープである。 型名に「UD」が付いているのは、このテープのコンセプトが「往年のmaxell『UD』の再現」を目指したものだからである。 「UD」と言えば、数年前に「復刻版 UD」が発売されている。これはパッケージや本体の見た目を70年代「UD」のように復刻したもので、テープそのものは「UR」相当であった。 それに対して、今回の「UD60FM」は、テープそのものを新規開発し、高性能な音楽用カセットとしての「UD」の再現を狙ったものらしい。 それでも、昨今の録音用磁気テープの製造環境では1980年代後半の超高性能な「UD1」の再現までは無理だったようだが、現時点でも可能な方法で高音質化が図られているようである。 しかし、これは逆に考えると「UD60FM」は現在リアルタイムでは最高性能のノーマルタイプのカセットということになるかも知れない。 これは興味が湧いてくるではないか! ということで、今回の学芸部だよりの題材は「UD60FM」である。 しかし、単なる使用レボートでは当博物館らしくない(笑)。 「UD60FM」は旧「UD」の再現ということなので、ここでは旧「UD」との比較レポートをしてみることにしよう。 当博物館で「UD」と言えばこれ↓。以下、この70年代「UD」を「旧UD」と呼ぶことにする。 |
「旧UD」(画像をクリックすると紹介ページが開きます。)
○ まずは外観から
では、まずは外観からということで、軽く見た目の比較をしてみよう。 |
パッケージ(上が「旧UD」、下が「UD60FM」)
カセット本体(同)
シマシマ模様以外は全く異なるデザインである。
リーダーテープと磁性体部分(同)
下の「UD60FM」のリーダーテープにもクリーニング機能があるようだ。
磁性体の色はやや違う。
パッドも「UD60FM」の方がやや大きい。
比較して分かるように、今回の「UD60FM」は以前の「復刻版UD」とは異なり、見た目を無理に似せようとはしていない。 パッケージのシマシマ模様は同じ(のように見えるが、実は左右が逆になっている。笑)なので、イメージは踏襲しているものの、それ以外はほぼオリジナルなため、「新UD」と呼ぶべきかも知れない。 |
○ 周波数特性とノイズレベル
続いて、性能を比較してみよう。 分かりやすいところで、周波数特性(f特)とノイズレベルを調べてみた。 測定用のデッキは、当博物館のリファレンス機の一つである、REVOXの「B215」を使った。 |
REVOX「B215」
(上に載っているのは入出力セレクター)
周波数特性の測定方法は、20〜20kHzのスイープ信号を録音再生することで行う。 デッキの「ALIGN」(=オートキャリブレーション)機能を使って、測定前にバイアス、レベル、録音イコライザを調整する。 結果は以下のとおり。 まず、-20デシベルでの録再結果である。 |
上が「旧UD」、下が「UD60FM」の結果
そして、0デシベルでの録再結果はつぎのとおり。 |
上が「旧UD」、下が「UD60FM」の結果
ふーむ。 あまり違いがない・・・。 強いて言えば、いずれも「UD60FM」の方がフラットに近い。0dBでは「旧UD」の高域の落ち方がやや早く、「UD60FM」の方は20kHzまで伸びている。 なお、縦軸の目盛りを読むと実際より5〜15dBほど低くなっている。これは、パソコンへ出力する際のマッチングによるものなので気にしないでいただきたい(笑)。 次に、ノイズレベルである。 これは、無入力録音信号の再生出力をグラフ化したものなので、当然、デッキ自体のノイズが載るがテープの比較にはなる。 |
上が「旧UD」、下が「UD60FM」の結果
微妙なところだが、「UD60FM」の方が1kHz以下のノイズが少ないようだ。 こうして見ると、「旧UD」の優秀さがあらためて良く分かる(笑)。 テープの性能は周波数特性やノイズレベルだけで単純に比較できるものではないが、「UD60FM」は「旧UD」以上の性能を持っているのは間違いないようだ。 |
○ さて、実際の聴感は?
テープの善し悪しは、実際に録音再生した音楽を聴き較べて見ないと分からない。 ということで、最後に、手持ちのいくつかのデッキで聴き較べを行った。 REVOX「B215」 「旧UD」=入力音に較べると再生音はやや明るくなり、明瞭度は微妙に落ちる。 「UD60FM」=フラットでくっきりした再生音。入出力の音の差がほとんど分からない。 SONY「TC-KA7ES」 「旧UD」=館長の駄耳では入出力音の判別はほぼ不可能なレベル(笑)。 「UD60FM」=「旧UD」に較べると出力音の解像度・再現性がやや高い感じがする。 Nakamichi「DRAGON」 「旧UD」=全体にエッジがやや甘くなる印象である。 「UD60FM」=入出力の音質はほぼ同じで、「旧UD」より明らかにシャープである。 以上より、全般的に言えることは、音質的には双方互角であり、再生音の解像度において「UD60FM」がやや上回るといったところである。 また、「旧UD」の方がノイズがやや目立つようだ。 「旧UD」がシャープさに欠けるのは、テープが40年以上前のものなので、若干劣化しているためではないかと思う。 逆に、それだけ古いテープが最新のテープと互角の勝負をしていることになり、これはこれで驚きである。 ちなみに、バイアスや録音レベルのキャリブレーションに関しては、「旧UD」に較べて「UD60FM」はバイアスをやや深めにし、録音レベルを少し下げるとベストになる。 「UD60FM」は中低域がしっかりしており、ローバイアスでも歪みが少ないようなので、音楽のジャンルによっては、バイアスをやや浅めにして明るい音を楽しむのもアリかも知れない。 ここで、さらに比較ということで「復刻版UD」で録再をしてみた(笑)。 ・・・・ ううむ。「旧UD」や「UD60FM」とは違い、録再音にハッキリとした差がある。 オーバーレベルに弱く、全般的に歪み感が目立つ。ボリュームを下げてもこの歪み感は取れない。高音域の閉塞感もある。 「UD60FM」と現行「UR」との差は歴然であった。 |
○ まとめ
音の良いカセットで録音する作業は実に楽しい。 それも「新製品」のカセットで、これだけ楽しく録音したのは何年ぶりだろう。いや、何十年ぶりのことだ。 「モデルチェンジ=高音質化」であった1970〜80年代、新製品のカセットを初めて使うときのワクワク・ドキドキ感を久しぶりに味わった。 絶頂期の製品には及ばないかも知れないが、現在でもこれだけの性能のカセットが製造可能ということが分かったのもうれしいかぎりだ。 今回「UD60FM」を世に出していただいた「stereo」編集部の皆様やマクセルの皆様には感謝の言葉しかない。 本格的カセットデッキがほとんど販売されていないこの時代において、ハイファイ用のカセットにどれだけの需要があるかは分からないが、カセット録音の楽しさを知るマニアとして、このカセットを「LHタイプ」の久々の新製品として市販していただくことを熱望せずにはいられない。 |
(本文の記述は、全て館長の個人的な感想に基づいています(笑)。)
このページのTOPへ