SONY初のカセット3ヘッド機
1970年代に君臨したフラッグシップ!
○このデッキの特徴
本製品はSONY初の3ヘッドカセットデッキである。 館長の記憶では、1979年に「TC-K75」が登場するまで6年間、同社唯一の3ヘッドステレオカセットデッキ(※1)であり、また同年に「TC-K88」が発売されるまで、同社の据置型カセットデッキの最高峰(※2)としてカタログに君臨し続けた製品でもある。 |
(※1) 「TC-5000」(ビジネスデンスケ)という3ヘッド機はあったが、モノラルのポータブル型で、3ヘッドとは言っても2ヘッドにアフターモニター専用の再生ヘッドが付加されたものだった。 (※2) 金額的には「カセットデンスケDD」(1976年頃発売・¥158,000)が上だが、これは生録用の可搬型デッキで2ヘッドである。 |
本製品は、1973年の発売当時主流だった「水平型デッキ」で、写真で分かるようにカセットの装着や各種操作全てを上部で行うスタイルである。 寸法は幅455×高さ155×奥行320mmと当時の同社の他のカセットデッキより一回り大きく、重量も1.5〜2倍以上の10sと、最高級機らしい存在感と貫禄を持ったデッキであった。 |
* TEAC「C-1」との大きさ比較 *
「C-1」はかなり大型のデッキだが、見る角度によっては「TC-6150SD」の方がボリューム感があるように見える。高さを低く見せるためか、サイドウッド(木目の部分)の巾(高さ)を意識的に縮めているようだが、その上下の黒いプラスチック部分の高さがかなりある。 |
さて、デッキを3ヘッド化するメリットの一つは、録音時の同時アフターモニターが可能となることだが、それ以上のメリットとして挙げられるのが、録音、再生それぞれに最適なヘッドギャップ(ヘッドの先端にある隙間)のヘッドを使うことにより高音質化が見込めるということである。 一般的に、録音用のヘッドは録音特性上ワイドギャップがよいが、再生用のヘッドはナローギャップにしないと高音が伸びないという問題があるため、2ヘッドの録再兼用ヘッドの場合は双方の妥協点である1.5ミクロン程度のギャップとなっている。 これに対して、本製品の録音ヘッドは7ミクロンというワイドギャップ、再生ヘッドは0.9ミクロンという超ナローギャップになっている。これによって、録音時、特にバイアスの大きいクロムテープ使用時における歪みを低下させるとともに、再生時の高域特性を向上させている。 このように、メリットの大きい3ヘッドなのだが、前回の「RS-279U」の項でも述べたように、カセットデッキを3ヘッドにすることは簡単ではない。というのも、カセットテープは2ヘッドのテレコを想定して外殻の開口部を規格化しているため、3つのヘッドをテープにタッチさせることがスペース的に難しいのである。 また、スペース的な問題だけではなく、録再兼用ヘッド用の中央の開口部以外にはテープをヘッドに圧着させるパッドが無いため、この場所以外にヘッドを配置するとテープとの接触(ヘッドタッチ)が不安定になる。 それを避ける方法の1つとして録音と再生のヘッドを一体化した「コンビネーションヘッド」を使用する方法があるが、本製品の場合は、2つのピンチローラーでテープに一定のテンションをかけるデュアルキャプスタン方式によってヘッドタッチの問題を解決した上で、完全独立型の3ヘッド構成を採用している。しかし、ピンチローラーが2つあることによってさらにスペースが限定され、ヘッド配置の難易度が上がっている。 それでは、どのようにヘッドを配置しているかというと、通常の録再ヘッドの位置には再生専用ヘッドを配置し、録音ヘッドはその脇にある小さいエクストラホールから入るようになっている。このため、録音ヘッドは凸型をしており先端は棒のように細くなっている。 |
* ヘッド周り模式図 *
さらに、消去ヘッドは送り側(S側)ピンチローラーの左脇に、テープガイドを兼ねる形状で配置するという何ともアクロバチックな方法をとっている。 |
* 実際のヘッド周り *
(録音と再生のヘッドはシールド板に隠れている。)
本製品のヘッドは録音と再生いずれもSONY自慢の「F&Fヘッド」(フェライト&フェライト・ヘッド)が使われている。棒状の録音ヘッドも「F&Fヘッド」である。いずれも他機種では使われていないヘッドであり、本製品専用に設計されたものである。 なお、「TC-K75」以降の3ヘッド機は「S&F」や「レーザーアモルファス」などのヘッドが使われているため、「F&F」による3ヘッド構成のカセットデッキは本製品が唯一ということになる。 以上のように本製品の最大の特徴は独立型の3ヘッド構成であるが、その他の特徴についても述べていこう。 【SONYらしい秀逸なデザイン】 水平型デッキというのはデッキの上部に操作部があるのだが、この上部のパネル面はやたらと広いため、オープンリールならいざ知らず、コンパクトなカセットテープのデッキの場合、スイッチやボリュームの間や余白部分が大きく空いてしまいがちである。 その結果、パネル面の空間を持て余し、全体が間延びした感じになってしまうため、それを如何にスタイリッシュに見せるかが当時の各メーカーのデザイン力の見せどころでもあった。 本製品はカセットデッキとしてはかなり大型なので、この問題はより深刻である(笑)。 本製品では、シルバーのパネルの中央部分にブラックのエリアを設け、そこに電源と操作ボタン以外の全てのスイッチや機器類を配置してある。 広さを限ったエリアに機器類を集中させることによって、機能的でまとまった感じを出しており、そのブラックのエリアは周囲のシルバーパネルにはめ込まれた操作盤的なイメージになっている。ブラックとシルバーという色の対比もパネル面全体を引き締めている。 |
* デッキ上面のパネルレイアウト *
スイッチ類にはレバースイッチも押ボタンスイッチもあるが、よく見ると、色や形状、配置がよく考えられているだけではなく、カセットリッドやスライドボリュームとの位置関係も考慮され、操作性はもちろん、全体のデザインバランスから見てもそれぞれが絶妙な位置に配置されている。 電源ボタンと操作ボタンはブラックフェイス部分の手前にある一段高くなったボード上に配置され、こちらも別の操作盤のようなイメージを醸し出している。 電源スイッチはそのボードの右端にあり、形状は操作ボタンと同じ丸形である。ポーズボタンとの間は結構広く空いているのだが、この部分は「SONY」ロゴと製品名のデザイン化された記載によって冗長さは感じられず、それどころか大変にカッコイイ見た目になっている。 |
* 電源ボタン(右端)と操作ボタン *
(周囲より一段高くなっている。)
一列に配置された操作ボタンは、両端のイジェクトとポーズは四角だが、その他は丸い押しボタンである。 丸くしてあるのはデザインということもあるだろうが、四角いレバーがピアノ式で並んでいる一般的なメカニカル操作のデッキとは違うということ、つまり、ソフトタッチのボタンで操作する高級デッキあることが一目で分かるようアピールしたかったのではないかと思ったりする。 |
* 操作ボタン部拡大 *
パネルの背面側は斜めに持ち上がっている。 水平型のデッキはオーディオコンポの一番上に積まれやすいため、レベルメーターやカウンターなどの視認性を高めるという実用的な目的もあるが、平坦なパネル面を立体化してデザイン的なアクセントにするという効果もある。 この斜めになった部分と平坦部分の一部はシルバーで縁取りがされ、ボリュームやカセットリッドのある部分とは光沢も変えて別のエリアという印象となっている。 このエリアにもドルビーなどのスイッチ類を配置することで間延び感を抑えており、丸い押しボタンの大きさも良い。 |
* メーター周り *
(写真では分かりにくいが、下側のボリューム周りの黒い部分はマット仕上げで、メーター周りはその下の押しボタン部分も含めて光沢仕上げになっている。)
今あらためて眺めると、全てのパーツが緻密に考え抜かれている秀逸なデザインをしていると思う。 操作性とデザイン性を両立させて製品価値を高めるソニーデザイン。今見てもさすがだと思う。 【ダブルドルビー回路 + REC・CAL機能】 本製品は当時の高級デッキでは標準仕様になりつつあったドルビーノイズリダクション(Bタイプ)が装備されているが、ドルビーを使った録音時の同時再生モニターにおいてドルビーデコードされた音声が聴けるように、録音(エンコード)用と再生(デコード)用のドルビー回路を独立させた「ダブルドルビー回路」構成になっている。 また、使用テープの録音感度の違いにより録音時と再生時のレベルが異なるとドルビーのデコードが正確に行われなくなることから、これを補正する「REC・CAL」(録音キャリブレーション)機能が装備されている。 【ソフトタッチボタンによるオペレーション】 本製品の操作ボタンは、高級機らしく軽く押し込むだけで動作するソフトタッチのボタンである。 実際に内部のメカを動かすのは電磁式ソレノイドで、ビシッと俊敏な動きを見せる。 なお、本製品にはロジック回路は搭載されておらず、ボタンに連動した機構とソレノイドを使って、ロジック回路で制御されているかのような動作を実現している。 |
* 操作ボタンの機構説明図 *
(ボタンを押すと、傾斜している動作板が水平になり、プランジャ(ソレノイド)が通電されアームを動かす。アームは水平になった動作板のみに当たるようになっており、その動作板のボタンの操作が行われることになる。また、早送り・巻戻し動作中は送りボタンが押せないようになっている。)
【ライン・マイクのミキシングが可能】 1970年代のデッキはマイクの入力端子が装備されていることが普通で、高級機になるとマイク専用の録音ボリュームも付いていることが多かった。 本製品もその例に違わず、マイク入力ジャックとマイク専用の録音ボリュームが装備され、ラインとマイクのミキシング録音が可能となっている。 また、録音ボリュームには、水平型デッキならではと言えるスライドボリュームが採用されている。 【バイアス・イコライザー各3段切替スイッチ】 テープセレクターはバイアスとイコライザーが独立した切替スイッチとなっており、それぞれ3段の切替えができる。 これにより、当時発売間もなかったフェリクロムテープやクロムテープが適正なバイアス・イコライザーで使用できるほか、ノーマルタイプのテープについてもより適正バイアスに近い設定で使用することができるようになっている。 【複数番組の連続留守録音が可能】 送りボタンや録音ボタンは、通電の有無に関わらず押し込めば機械的にロックされるので、操作ボタンを録音状態にしてタイマーをセットすれば電源ON時のみソレノイドが作動して留守録音ができる。 複数回の電源ON・OFFが可能なプログラムタイマーを使えば、テープの終端まで複数の番組を留守録することが可能である。 【その他】 以上のほか、本製品は当時の最高機種らしく、様々な機能を装備している。 ・メモリー付テープカウンター ・瞬間的な大音量時のひずみを抑える、SONY独自のリミッター録音 ・どのモードでも動作する純電子式オートシャットオフ ・ピークレベルインジケーター ・ラインアウトボリューム ・動作状況を表示するインジケーター 等々、高級デッキにふさわしく、必要な機能はほぼ網羅されていた。 |
前述したように本製品はいわゆる水平型デッキなので、操作等は全て広い上面パネルで行うようになっている。 パネル面の大まかなレイアウトとしては、左側がトランスポート部で右側がオーディオ部となっている。 まず、右側手前にある電源スイッチを押す。 電源が入ると左右メーターとカセットリッド内の照明が点灯する。 カセットを入れるためリッドを開くには、操作ボタンの一番左にある四角い「EJECT」ボタンを押す。 このボタンはソフトタッチではなく機械式である。少し押すとカセットリッドのロックが外れ、バネの力で開く。 ボタンをさらに押すと、リッド内部のカセットベースが斜めに持ち上がるので、そこにカセットを載せ、上から押し込んで固定させる。 |
* カセットリッドを開けた状態 *
カセットを押し込むと、左右から爪が出てきてカセットが固定される。 リッドは閉めてもよいし、開け放しのままでもテープの動作には影響はない。 |
* カセットテープを入れた状態 *
(左右の黒い爪でカセットが固定される。)
次に、録音の準備に入る。 まず、テープセレクトのスイッチを使用テープに合わせる。 スイッチは、左側の「BIAS」(バイアス)と右側の「EQ」(イコライザー)のスイッチがそれぞれ3段切替できるようになっているが、どう組み合わせてもよいということではなく、テープ種別によってそれぞれのスイッチの設定はほぼ決まっている。 ノーマルポジション(=TypeT)の場合、「EQ」スイッチは「NORMAL」、「BIAS」スイッチは「LOW」又は「MEDIUM」で使う。 「BIAS」の使い分けとしては、「LOW」はTDKやBASF、「MEDIUM」はSONYやmaxellのテープを使う場合に推奨されていた。 当時発売されたばかりで唯一のフェリクロムテープであった「SONY」の「Duad」を使う場合は、「EQ」を「Fe-Cr」、「BIAS」は「MEDIUM」で使う。 クロムテープ(=TypeU)の場合は、「EQ」を「CrO2」、「BIAS」は「HIGH」で使う。これはまさに、TypeUのテープを「ハイポジション」と呼ぶ所以である。 |
* テープセレクター *
テープセレクターを合わせたら、録音キャリブレーションを行う。 これは、先述のように、ドルビー録音されたテープが適正にデコードされるよう「録音レベル=再生レベル」となるように、テープの録音感度に合わせて入力レベルを補正するものである。 ドルビー録音をしない場合は特に調整する必要は無いのだが、調整しておいた方が録音時のレベル監視がより適切にできるし、モニタースイッチを切り換えた際に音量が変わるのは気分的によろしくない(笑)ということもあるので、やっておいた方が良い。 調整の方法はさほど難しくない。 左ch.のメーターの下にある「CAL TONE」のボタンを押し込む。 「MONITOR」スイッチを「TAPE」側に倒す。 操作ボタンの「RECCORD」を押したまま「▶」(送り)を押し、録音をスタートさせる。 400Hzの信号が録音されるので、「CAL TONE」スイッチの右にある「REC CAL」のネジをマイナスドライバなどを使って回し、レベルメーターの針が左右とも「CAL」の位置を示すようにする。 調整が終わったら、「DOLBY NR」スイッチの「ON」又は「OFF」のボタンを押すと「CAL TONE」ボタンがリリースされる。 |
* 「CAL TONE」ボタンと調整中のレベルメーター *
このように、キャリブレーションが簡単にできるのも、録音同時再生ができる3ヘッドの利点である。 ドルビーを使って録音する場合は、「DOLBY NR」の「ON」のボタンを押し込む。すると、パネル奥の左側に並んでいるインジケーターのうち、左から2番目の「DOLBY」の黄色いランプが点灯する。 ドルビーを使ってFMのステレオ放送を録音する場合は、ステレオ復調用のパイロット信号によりドルビー回路が誤動作することを避けるため、「FILTER」スイッチを押しておく。 |
* 「DOLBY」と「FILTER」の押しボタンスイッチ *
続いて、録音レベルの調整を行う。 パネル面の右手にある「MONITOR」スイッチのレバーを「SOURCE」側にする。 先述のように、本製品はライン入力とマイクのミキシングが可能で、それぞれの入力ボリュームも独立しており、個別にレベル調整することが可能である。 ボリュームはスライド式である。水平型デッキのスライドボリュームというのは大変使いやすい。何より、スタジオのコンソールのようでカッコイイ。 |
* 録音ボリューム周り *
(スライドボリュームの左2つがマイク用で右の2つがライン用。
右下が「MONITOR」スイッチ。)
レベルメーターは黒地に白のスケールで高級感があり、目盛りや数字がハッキリしているためレベルが合わせやすい。メーターが傾斜して取り付けられていることも針の動きを見やすくしている。 本製品のメーターはVU式だが、左右のメーターの間にはピークレベルインジケーターがあり、VUメーターでは追随できないような瞬間的な大入力が分かるようになっている。 インジケーターは左右共用で、テープの飽和レベル近くで点灯するようになっているとのことなので、実際の録音ではフォルテの部分で時々点灯する程度にレベル合わせをすれば良いようである。 また、マイク録音の場合は、右ch.のメーターの下にある「LIMITER」スイッチをONにしておけば、予期せぬ大入力があっても歪みを抑えることができる。 「LIMITER」スイッチをONにすると、インジケーター一番左にある「LIMITER」の緑色のランプが点灯する。 レベル調整が終わったところで、いよいよ録音開始である。 録音を開始するには、先ほどのように操作ボタンの「RECCORD」を押したまま「▶」(送り)を押す。すると、インジケーターの右から2番目のにある「RECORD」の赤いランプが点灯する。 録音スタンバイの状態から開始するには、最初に「PAUSE」ボタンを押し込んでおく。 「PAUSE」ボタンを押すと「PAUSE」のオレンジのイジケーターが点灯する。 |
* パネルの左上に並ぶインジケーター(全点灯状態) *
(左から「LIMITER」「DOLBY」「RECORD」「PAUSE」)
録音スタンバイの状態から録音を開始するためには、もう一度「PAUSE」ボタンを押してポーズ状態を解除する。 ポーズが解除されると、一瞬の間を置いて「ガチャ」という音とともにメカが動作してテープの走行が始まる。 操作ボタンは軽いソフトタッチではあるが、フェザータッチというほどの軽さではなく、またストロークも大きい。 これは、先述したように、動作板などの機械的なメカニズムを動かしているため、どうしてもある程度の力やボタンのストロークが必要になるからである。 また、「RECORD」と「PAUSE」の機構はソレノイドで動作させるのではなく、ボタンのストロークによって内部のスイッチや機構を直接動かす機械式なので、ボタンを押す力もそれなりに必要である。 録音中に同時再生モニターをしたい場合は「MONITOR」スイッチを「TAPE」側に倒す。 スイッチの切替だけで原音と録音された音の比較が瞬時にできる。3ヘッド機ならではの醍醐味である。 録音が終了したら「STOP」ボタンを押す。 内部のソレノイドがリリースされ、テープが停止する。 高級機で機能も盛りだくさんだが、操作に難しいところはない。 マニアでなくても、気軽な操作で高音質な録音が楽しめるデッキである。 |
○音質
良い! いや素晴らしい! 「F&Fの3ヘッド構成」+「デュアルキャプスタン」の威力を見せつけるような良音である。 全体的には、ハッキリくっきり明るいソニーサウンドだと言える。 それでも、ノーマルテープはしっとり目の音、デュアドはメリハリのある音、ハイポジではソニーサウンド炸裂のパワフルな音、という風にテープの種類によるキャラクターの違いも演じ分けてくれる。 じっくり聴いていると、デュアドの音が一番バランスが良いように感じてくる。これは、高いテープを買わせるため、そう聴こえるようにSONYの罠が仕組まれているせいかもしれない(笑)。 ダイレクトドライブではない1モーターのデッキだが、音に揺るぎはなく、どっしりと安定している。 日本にカセットテープが登場してまだ10年も経っていなかった時期に、既にこれほどの音を出すカセットデッキが存在していたとは実に驚くべきことである。 そして、さらに驚くべきことは、それから約半世紀経った今でもこれだけの音を聴かせてくれるということだろう。これには、ほとんど摩耗していないF&Fヘッドの効果も大きいのではないかと思う。 |
○まとめ
本製品が発売された1973年は、Nakamichi「1000」やLo-D「D-4500」などの本格的3ヘッドデッキが相次いで登場した年である。 テープスピード4.75p/s、各チャンネルのトラック巾約0.6oという、ハイファイは到底無理と思われていた規格のカセットテープだったが、テープ自体の性能向上も相まって、当時全盛だったオープンリールデッキに迫る音を出せることが示された。 本製品の定価は128,000円(発売時)で、SONYとしてはハイエンドだが、「1000」の218,000円(同)や「D-4500」の150,000円(同。その後200,000円で受注生産になった。)に較べると当時の3ヘッドデッキとしては実は大変にお買い得価格であった。 見た目にも、NakamichiやLo-Dが普通のデッキとは異なったいかにもマニアックな雰囲気なのに比べ、本製品はあくまで当時の普通のカセットデッキの延長線上にあり、万人に受け入れられやすい形でありながら高級感のあるスタイリングである。 |
* Nakamichi 1000 *
* Lo-D D-4500 *
スタイリッシュで高級感があり、所有欲をそそられ、購入後の満足感も得られる、という当時のSONYの商品づくりのうまさが感じられる。 しかし、本製品以後、後継機は発売されず、3ヘッドデッキの発売も1979年の「TC-K75」まで待たなければならなかった。 独立3ヘッド構成というのがコストのかかるものだったのか、或いは、本製品以降主流となったコンポ型デッキでは3ヘッド化が難しかったのか、はたまた、その他の理由があったのか、定かではない。 とにかく、本製品は1970年代のSONYのカセットデッキのフラッグシップであり続けた。 「あり続けられた」のも、それにふさわしく色褪せない商品づくりがされていたことが大きかったのだと思う。 |
○機 能
・ | オールF&Fヘッド使用の完全3ヘッド方式 |
・ | クローズドループ・デュアルキャプスタン方式 |
・ | 録音・再生専用ドルビーシステム搭載(MPXフィルタースイッチ付) |
・ | 内蔵400HzOSCでテープの感度調整ができる「REC CAL」機能 |
・ | イコライザー3段、バイアス3段切換のテープセレクター(デュアド・フェリクロムテープ使用可能) |
・ | ピークレベルインジケーター |
・ | 歪みのない録音ができるソニーリミッター録音方式 |
・ | J-FET使用ダイレクトカップルアンプ |
・ | オートシャットオフ機構 |
・ | 留守録音、目覚まし再生可能 |
・ | メモリーカウンター |
・ | マイク・ライン独立スライドボリューム、ミキシング可能 |
・ | ラインアウトボリューム |
・ | ヘッドホン端子(2段階レベル切替スイッチ付) |
・ | ファンクション表示ランプ |
* デッキ背面 *
* 同 正面 *
○スペック
・ | ヘッド:再生専用(F&F)×1、録音専用(同)×1、消去用(フェライト)×1 |
・ | モーター:6極ヒステリシスシンクロナスモーター×1 |
・ | 周波数特性:(一般カセット)20〜17,000Hz、(フェリクロムカセット、クロミカセット)20〜20,000Hz |
・ | バイアス周波数:105kHz |
・ |
SN比(ドルビー OFF):(フェリクロムカセット、クロミカセット)55dB(ピークレベル)、(一般カセット)53dB(同) (ドルビー ONによる改善量は、5dB(1kHz)、10dB(5kHz以上)) |
・ | ワウフラッター:0.08% |
・ | 総合歪み率:2.0% |
・ | 入力:(マイク)ローインピーダンス 0.2mV(-72dB)、(ライン)100kΩ以上 0.06V(-22dB)、(録再コネクター)10kΩ以下 |
・ | 出力:(LINE)100kΩ負荷時 基準出力0.775V(0dB) 負荷インピーダンス10kΩ以上、(録再コネクター)10kΩ以下、(ステレオヘッドホン) 8Ω |
・ | 使用トランジスタ等:(トランジスタ)53石、(FET)2石、(ダイオード)46個(発光ダイオード1個を含む)、(IC)12個(ホールIC1個を含む) |
・ | 消費電力:32W |
・ | 寸法:435(W)×325(D)×155(H)mm |
・ | 重量:10kg |
・ | 価格:(発売時)128,000円、(終売時)156,000円 |
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