ESシリーズの異端児か?
SONY初のコンポ型デッキはカーステレオ似!

○このデッキの特徴
本製品の特徴は、見てのとおりである(笑)。 カセットカーステレオを無理矢理オーディオコンポの箱に入れたようなスタイルをしている。 全体としては、SONYの高級コンポ「ESシリーズ」の当時のデザインに準拠しており、トランスポート以外の特に右半分は、使われている部品や配置、全体的なイメージも当時のESシリーズそのものである。 しかも、当時の高級コンポらしく天板やサイド部分はウッドケースになっている。 しかし、である。問題は左半分にあるトランスポート部分である(笑)。 このカーステレオのユニットをはめ込んだような佇まいは、ESシリーズとして違和感があるばかりではなく、そもそもデザインに拘るSONY製品として違和感を感じる。 ローディングしたカセットがほとんど見えなくなってしまうというのも、カセットデッキとして何とも寂しい。 |

* カーステレオのようなトランスポート部 *

* 正にESシリーズ然とした右側オーディオ部 *
なぜ、このような製品が生まれたのか? 本製品が発売された1974年頃というのは、カセットデッキが水平型から重ね置きが可能なコンポ型へ移行し始めた時期である。 しかしながら、カセットを垂直にして安定走行させることが難しかったため、Technicsの「RS-676U」やPIONEERの「CT-7」など、当初のコンポ型デッキはトランスポート部分だけは水平になっていた。 そういう状況の中で、SONYが出した答えが本製品であった。 |

* テクニクス RS-676U *

* パイオニア CT-7 *
しかし、それにしても、なぜテクニクスやパイオニアのような製品にしなかったのか?という疑問は残る。 推測ではあるが、SONYとしてはコンポ型である以上は正立透視にしたかったのではないか。しかし、開発が間に合わなかった。さりとて、市場の強いニーズに応える必要もあり、取り敢えず出したのが本製品だったのではないか? と言うのも、本製品はSONY自らが開発した製品ではないように思われる節がある。 同じ時期に、「ベルテック(BELTEK)」というメーカーから、「M1150」という本製品に酷似した製品が発売されている。 |

* BELTEK M1150とM1130A *
(クリックすると拡大画像が表示されます。)
・・・実によく似ている。 アンプ部のスイッチの配列には違いが見られるものの、トランスポート部分は同一と言ってもよい。 ベルテックというのは、カーステレオなどを輸出していた実績のあるメーカーであり、このような製品をつくるのは「いかにも」という感じである。 同社からは、ほぼ同形で日本初のコンポ型カセットデッキとされる「M1130」が発売されており、恐らく技術的にもしっかりしていたのだろう。 SONYとしてはその辺を見込んで、正立透視型までのつなぎ製品の製造元として頼ったのではないか・・・、つまり、本製品は「M1150」をSONY仕様にした製品なのではないか・・・と思うのである。 まあ、いきさつはともかく、本製品はSONYのカセットデッキとしては特異なデザインであることには間違いない。 それでは、少しデザインの細部を見てみよう。 まずは、本機の左半分。大きな特徴となっているトランスポート部分である。 デッキ全体としてはオーディオコンポらしく銀色のアルミパネル仕様なのだが、このトランスポート部分だけがダークグレーのプラスチックパネルになっており、これが車のダッシュボードを連想させ、見た目のカーステレオ的な雰囲気を一層増大させている(笑)。 |

* トランスポート部分拡大 *
しかし、一番下に並んでいる操作レバーは、デッキらしくピアノ式で、金属メッキが施されていてなかなか高級感がある。 ストップレバーは中央部分に独立しており操作しやすい。 ストップレバーの右には小窓がある。これは「テープセンチネル」というものだそうで、テープの回転に連動して緑色の縦棒状の照明が、送りの場合は左から右へ、巻き戻しの場合は右から左へ流れるように動くインジケーターである。 装着されているテープの回転を目視することができないため、このような仕組みを設けたのだろう。 |

* テープセンチネル *
トランスポート部分の一番上はカセットの挿入口で、入り口のドアに描かれているように、カセットのヘッドに当たる部分を左にして、水平の状態で挿入する。 この挿入口の感じがいかにもカーステレオ風である。 挿入口の右にはテープカウンターがあり、左にはカウンターメモリーとカセットリッド内照明の各スイッチがある。 左にある「LIGHT」スイッチを押すと、リッド内の照明が点灯する。 角度的にはやや見にくいが、この内部照明を点けるとテープの残量が何とか確認できる。また、ヘッドのクリーニングの際も便利である。 |


* 内部照明OFF(上)、ON(下) *
デッキの右半分はオーディオ部で、上から、録音インジケーター、レベルメーター
、各種切替スイッチ、一番下には各種ジャック類が配置されている。
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* アンプ部拡大 *
デッキの右端には、ラインとマイクの入力ボリュームが独立して上下に付いている。 当時としては大型のレベルメーターが使われ、スイッチやボリュームのノブは豪華な金属部品で、配置も洗練されているなど、右半分だけ見るとESシリーズらしく高級デッキそのものである。 機能についても、ドルビーNR、フェリクロムテープも使えるテープセレクター、メモリーカウンター、マイクミキシングなど当時の高級デッキに相応しいものが装備されている。 当時のソニーデッキお約束の前面ライン入力ジャックもある。 機能や使用部品が高級デッキ仕様なのに、なぜトランスポート部分をカーステレオそのもののようなデザインに?? 疑問はなおさら大きくなる。 実際、ベルテックの製品の方は、カセットの挿入部分以外は極力金属パネル仕様にして、デッキとしての違和感を和らげるデザインになっている。 当時のカセットカーステレオというものが、実は高級なイメージのものだったのだろうか? いずれにしても、本製品はその異色なデザイン故に独特の雰囲気を持っている。 |
電源スイッチはレバー式でパネルの左下にある。これは当時のESシリーズ共通である。 スイッチを入れると左右レベルメーターの照明が点灯する。 |

* 電源スイッチ *
カセットの装着は、ヘッドにあたる部分が左側になるように水平横向きにして挿入口に差し込む。 挿入口のドアはカセットで押すと内側に開く。カセットを押し込むのにはちょっと力が要る。 |

* カセットのローディング *
押し込んで手を離すと、バネの力でガチャンとカセットが下に移動し、ローディングが完了する。 カーステレオのメカがそのまま流用されているのか、移動する際のバネの力やカセットをホールドする力は結構強そうで、ローディングされたカセットはちょっとやそっとの振動ではびくとも動かない感じである(笑)。 次に使用テープに合わせてテープセレクタをセットする。 テープセレクタはレベルメーターの右下にある。 「NORMAL」「Fe-Cr」「CrO2」の3つの押しボタンになっており、該当するテープのボタンを押すだけでバイアスとイコライザ両方が切り替わる。 |

* テープセレクタボタン *
続いて録音の準備に入る。 このデッキの録音ボタンは送りボタンと同時押ししないとロックされないので、入力信号をモニターして録音レベルを調整するためには録音ポーズの状態にする必要がある。 そのためには、まずポーズボタンを押し下げロックする。次に赤い印の付いている録音ボタンと 送りボタンを同時押しする。 ガチャッと、内部でソレノイドが作動する力強い音がし、メーターの上にある赤い「RECORD」ランプが点灯して録音ポースの状態になる。 送りボタンは単なるソレノイドのスイッチの役割なのでロックはされず、手を離すと上に戻る。 レベルメーターを見ながらパネル右にあるボリュームで調整する。 ボリュームはラインとマイクの入力が独立して調節できる。ミキシングも可能である。 先述のようにボリュームのつまみはESシリーズらしく金属製の豪華なもので、左右別々に回すことも一緒に回すことも片手で可能で、指掛かりもしっかりとあり、調節が大変やりやすい。 レベルメーターは比較的大きめで、バックパネルが黄色で目盛もはっきり表示されており分かりやすい。 |

* レベルメーター *
メーターはVU型で目盛は+3VUまでしかないが、ピークレベルインジケーターが付いているため、過大入力のチェックは容易である。 なお、当時のソニーらしくリミッタースイッチが付いているので、これをONにしておけば、マイク録音時などの予期しない過大入力にも安心である。 また、ドルビーNRを使う場合はドルビースイッチを押す。すると、スイッチの左にあるインジケーターが点灯する。 |

* ドルビースイッチとリミッタースイッチ *
録音レベル調整が済んだら、録音をスタートさせる。 ポーズボタンを押して解除するとテープが動き出し、「テープセンチネル」の緑の明かりも左から右へ動き始める。 録音が終了したら、横に長い「STOP」キーを押してテープを止める。 この時の音も力強いが、単にロックを外すだけの動作のためか、送りボタンを押した際の音より軽い感じである。 テープを取り出すためには「EJECT」ボタンを押す。 押した瞬間、強力なバネが戻るような大きな音とともに、カセットの1/3くらいが挿入口に出てくる。 この動作が実に素早い。本当に瞬間的に出てくる感じである。しかも、勢いでカセットが飛び出してしまうということはなく、1/3くらいの部分だけが「ビシッ」と出て止まるところが何とも凄い(笑)。 |
正直、音を聴いて驚いた。 当たり前ではあるが、これはカーステレオの音ではない。 それどころか、正に基本性能がしっかりしている高級デッキの音である。 見た目から来る意外性で余計に良い音に聞こえるという気もしなくはないが(笑)、とにかく、館長の好きな(笑)明るく、メリハリのあるソニーサウンドを聴かせる。 ワウフラも少なく、安定している。 なるほど、これは確かにESシリーズのデッキである。 |
○まとめ
ハイセンスなSONYのESシリーズとしては異端な見た目のデッキであるが、デッキとしての性能はESシリーズの名に恥じない。 F&Fヘッドの表示があるとおり、アンプ系やテープの走行系は完全にSONYデッキとしての仕様なのだろう。 カセットのローディングにしても、慣れてくれば、その確実で剛健な動作が頼もしく思えてくるし、使い勝手も良い。 しかし、走行中のカセットが見られないというのは、カセットデッキとしては何とも物足りない。 その反動がSONY次作品である「TC-5350SD」の正立透視型の実現につながったのかも知れない。 |

○機 能
・フロントローディング ・ドルビーノイズリダクション(Bタイプ) ・ピークレベルインジケーター ・フェリクロムテープが使える3段切替テープセレクター ・ソニーリミッター録音方式 ・マイク、ライン独立の入力ボリューム(ミキシング可) ・メモリーカウンター ・トランスポート内部照明 ・テープ走行が確認できるテープセンチネル ・オートシャットオフ ・ラインアウトボリューム ・パネル前面LINE入力ジャック ・ポーズボタン ・ACアウトレット(裏面) |

* デッキ裏面 *
○スペック
・ヘッド:録再(F&Fヘッド)×1、消去(フェライト)×1 ・モーター:DCサーボモーター×1 ・SN比:52dB(ノーマルテープ・ドルビーOFF) 54dB(フェリクロム/クロムテープ・ドルビーOFF) ・周波数特性:20〜15,000Hz(ノーマルテープ) 20〜17,000Hz(フェリクロム/クロムテープ) ・ワウ・フラッター:0.08% ・バイアス周波数: 100kHz ・使用半導体:IC×2、トランジスタ×33、ダイオード×22 ・消費電力:20W ・寸法:435(W)×155(H)×320(D)mm ・重量:9.3s ・価格:73,500円(発売当初は69,800円) |

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