○このデッキの特徴
カセットデッキで初めてキャプスタンをダイレクトドライブ駆動とした製品で、カセットの装着や各種操作全てを上部で行う、いわゆる水平型のデッキである。 ナショナル(現:パナソニック)は、1970年頃にダイレクトドライブのターンテーブル(SP-10)を発売し、ダイレクトドライブ方式の先鞭を付けたが、カセットデッキのダイレクトドライブ化は走行安定性の飛躍的向上をもたらし、カセットデッキが本格的なオーディオ機器として認知されるきっかけともなった。 さらに、本機は、カセットデッキ初の電磁式ソフトタッチオペレーション、リールモーターを独立させた2モーターシステム、HPF(ホットプレスフェライト)ヘッドの採用、メモリーカウンターの装備など、当時としては先進的で豪華な仕様となっていた。 定価の方も59,800円という、当時としては最高価格のカセットデッキであった。 ちなみに、1971年のグッドデザイン賞を受賞している。 |
○操作性
製造後40年以上になるデッキであるが、軽快なソフトタッチキー方式の操作性は健在である。 |
* 操作キーの配列 *
このソフトタッチキーの操作ボタンというのは、1980年代以降は当たり前となったが、当時としてはプロ用のオープンリールデッキなどでしか採用されていない仕様であり、デッキユーザーにとっては憧れのメカであった。 各操作ボタンを押すと内部のリレーとプランジャーが動作してメカニズムや電子回路を切り替える仕組みになっている。 本機の場合、ロジック回路を使って操作している訳ではなく、動作中に保持されているプランジャーのスイッチをストップボタンで解除するという単純な仕組みなので、早送りや巻戻しからプレイへのダイレクトチェンジはできない。(テープ絡みの原因となるためであろう。) ポーズボタンも電磁式であるが、ロックはされず、押している間だけ動作するもので、手を離すと再生(録音)を再開する。 後年のモータードライブのメカに比べると応答性が非常に早く、いかにも機械を「操作」しているという感覚が味わえる点がマニアにとってはたまらなく良い(笑)。 デッキ周りをウッド材で覆っているためか、プランジャーの動作音もさほど気にならない。 |
○音質
今あらためて聴いてみると、40年以上前のデッキとは思えない力強く安定した音である。音の粒立ちもはっきりしている。1970年代初めにカセットがこれだけの音を出していたと思うと驚きである。 確かに、1980年代以降のデッキに較べればノイズは大きいし、カタログ上の周波数特性も劣るのだが、ナショナル得意のソツ無くまとめる音づくりのうまさか、大変に心地よい音である。 さらに、HPFヘッドの摩耗やDDモーターの劣化がほとんど無いこともあって、90年代のテープを使うとスペック以上の性能を発揮する。さすがに当時のフラッグシップ機である。 |
* カセット挿入部のリッドに輝く「HPF」マーク! *
ちなみに、本機には、クロムテープ用のポジションもドルビーも搭載されていない。要するにそれらが登場する以前、まだ、カセットもノーマルとLHしか無かった時代の機械なのである。 にもかかわらず、今でもオーディオ機器としての評価ができる音質というのはたいしたものである。発売当時は画期的な製品だったに違いない。 |
○機能 他
毎秒約5回転のダイレクトドライブモーターは、今でも滑らかに回転する。 このモーターは、DDレコードプレーヤー用のものをカセットデッキ用にアレンジしたようで、やたらと大きく、いかにもタフな感じである。 |
* DDモーターの説明(当時のカタログから) *
メーターも当時のデッキとしては大型で見やすい。 |
* VUメーター(-20〜+3VU) *
テープセレクターは「NORMAL」と
「SG」の2種類しかない。 テープセレクタースイッチの右に「NFD」というスイッチがあるが、これは、ノイズリダクションの1種で、再生時に曲間の無音部分のヒスノイズを聴感上減らすものである。(ドルビーなどとは異なり、録音時には機能しない。) |
* 左から、カウンターメモリー、テープセレクト、NFDの各スイッチ *
レベル調整は、録音と出力がいずれも左右独立の回転ボリュームである。当時主流だったスライドボリュームは使用していない。 後部にはマイク入力用のジャックがあり、生録も可能になっている。 |
* 左から、入力LR、出力LRの各ボリューム *
録音ボタンは他の操作ボタンからは離れた位置にあり、押すと「録音ポーズ」の状態になる。実際に録音を始めるには、送りボタンを押すだけである。 |
この録音の操作方法は以後のテクニクスのデッキに受け継がれていく。 録音と送りボタンの同時押しに拘るSONYのデッキとは決定的に違うところでもある。 |
「Technics」はナショナルのかつてのオーディオブランドであるが、当時はまだブランドの認知度が低かったためか、本機には「Technics」の文字とナショナルマークが併存したステッカーが貼られている。 |
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