粋なデザインにDCアンプ構成
あのLUXMANのカセットデッキ!

○このデッキの特徴
LUXMAN(ラックスマン)と言えば、マニアに絶大な人気を誇る日本の高級オーディオブランドである。 会社名はラックス(LUX)株式会社で、その製品はいずれもクラフトマンシップを感じさせるものが多く、既に半導体の時代になっていた1970年代においても、真空管を使った高級アンプやチューナーを作り続け、伝説的な銘品となっているものも少なくない。 しかし、カセットデッキ市場への参入は最後発組であり、最初の製品である5K50、K-12という2つの製品をデビューさせたのは1970年代の終わり、メタルテープ登場の話題で席巻されていた1978年のことであった。 とは言え、そこはやはりLUXである。「取り敢えずOEM供給を受けた製品にLUXMANのシールを貼って投入しておこう」などという安易な参入ではなかった。 発売したのは、独特のデザイン、音にこだわる独自の仕様で「LUXがデッキを作るとこうなる」ということを世に示した製品と言えるものであった。 本製品である「K-10」は、これらのデビュー作の翌年に、「K-12」の普及版というイメージで発売されたものである。 |

* 「K-10」(上)と上位機の「K-12」(下) *
全体的な見た目のイメージは「K-12」そのままで、レベルメーターがFL(蛍光表示)管ではなくLEDであること、テープカウンターが電子式ではなく機械式になっていることが大きな違いとなっている。 少し前置きが長くなったが、詳しく見ていくことにしよう。 外見的な特徴として、まず挙げなければならないのは、デッキの右上にまとめられているファンクションスイッチの形と配置だろう。 |

* ファンクションスイッチ *
独特である。普通のデッキであればボタンが整然と並んでいるものだが、このデッキは違う。 まず、上下に並んでいる「ストップ」と「送り」のボタンがやたらと大きい、他のボタンの6倍くらいの大きさがある! ポーズと録音ミュートは送りボタンの右にあり、送りボタンとは微妙な距離が開いている。 早送りと巻き戻しはストップボタンの両脇に配置されている。 録音ボタンだけは赤い色をしており、早送りの右下の、これまた微妙な位置に配置されている、といった具合である。 何とも斬新なレイアウトであるが、使ってみると、重要なボタンが大きくなっていることで大変分かりやすく操作しやすい。録音ボタンの色や位置も誤操作防止に役立っている。 単なるデザイン重視ではなく、機能的によく考えられていることが分かる。 カセットデッキというより、オープンリールデッキのファンクションスイッチの配置に似ているかも知れない。 テープのトランスポート部はデッキの中央にある。 カセットリッドのドアはスモークがかった強化ガラスで、高級感がある。 ガラスの部分が大きいので、ドアを閉めた状態でもカセットのラベルだけではなく、テープのホルダーやヘッドベースまで見ることができる。 |


* カセットリッドドア (上)オープン・(下)クローズ *
また、そのヘッドブロックのダイキャストベースもごつい。 しかも、型番まで付いている! 敢えてヘッドベースを見せるデザインなのである。 このごついヘッドベースはLUXMANカセットデッキの特徴で、特に最上位機種の5K50は、メタルテープ対応用にベースごとヘッドブロックを交換するようになっていた。 |

* ヘッドベース部分 *
デッキ左側に目を移すと、レベルメーターと各種スイッチが機能的に並んでいる。 レベルメーターは12セグメントのLED表示である。 |

* レベルメーター *
LED表示のメーターは、80年代以降においては普及機でも使われた方式であるが、針式メーターがほとんどであった本製品発売当時においては最先端のものであり、それだけでも斬新で高級感を与えるものであった。 さらに、本製品の場合、目盛やドルビーマークなどは横から別の照明を当てることによって浮き出して見えるようになっており、さらに高級感を高めるデザインとなっている。 よく見ると、このメーターの下の方に「metal range」と書かれた表示がある。 これは、テープセレクタをメタルテープに合わせた場合、メーターの目盛はこちらになりますよ、という意味で、通常(normal/CrO2)テープの場合のメーターの最大目盛は+6dBだが、ダイナミックレンジが大きいメタルテープ使用時には最大表示が+10dBになる。 なお、LEDのセグメント数は変わらないため、メタルの場合、最小目盛が-30dBから-20dBに変わる。まあ、実用的には最大ピークレベルを監視する方が重要なので、これは合理的である。 メーターの下にはスイッチ類がレイアウトされており、回転式と押しボタン式のものが使われている。 |

* 各種スイッチ類 *
押しボタンの方は極端に小さい。が、押しにくいという訳ではない。 回転式の方は、そこそこの大きさがあり、指掛かりが大きいタイプなので、しっかりと操作できる。 スイッチに大小あるが、デザインの統一感が失われている訳ではない。むしろ、巧みに配置されているために、小さい押しボタンがデザインのアクセントになっている。 このデッキは斬新なデザインが目を引くが、実際に使ってみると、それは奇をてらったものではなく、操作性や機能性を考えた結果だということが分かる。 さらに、このデッキは見た目では分からない部分にも特徴がある。 録音・再生アンプはヘッド直結のDCアンプ構成、ヘッドにはセンダストヘッドが使われており、メタル対応となっている。 |

* 中央が録再用センダストヘッドで左が消去用ヘッド *
* ヘッドベースの厚みがスゴイ! *
しかも、見た目の感じから、どうやらこのヘッドは当時ビクターの高級機に使われていた「XカットSAヘッド」のようなのである。 ちなみに消去ヘッドもセンダストヘッドである。こちらもビクターデッキと同じものかもしれない。 その他、デザイン的なアクセントとして、筐体トップカバーの前面パネル寄りの部分にさりげなく製品名が印刷されている。しかも目立たない色で。 |

* トップカバーに印刷された製品名 *
メーカーによっては、トップカバーにブロックダイアグラムなどが仰々しく印刷されている例があるが、あれは装飾であって、記載内容にはほとんど意味がないと思う(笑)。 それに較べると、こちらはデザインに徹しており、しかもなかなか秀逸である。真空管アンプのように細かく金属カバーにパンチングされた通風口とも良くマッチしている。 中身的には、2モーター2ヘッド構成という、高級機としてはオーソドックスな仕様であるが、LUXらしい音へのこだわりとデザイン感覚が光っているデッキである。 |
○操作性
電源スイッチは、パネル右下にある黒くて小さいプッシュスイッチである。 スイッチを押すと、カセットリッド内の照明とメーター部の目盛表示が点灯する。カウンターにも照明が付いている。 カセットリッド左側にあるイジェクトボタンは一般的な感覚からすると若干小さめである。まあ、動作が軽いので、押したときに指が痛くなることはない(笑) ボタンを押すとカセットリッドのドアがスッと開く。 カセットを入れ、ドアを閉める。ガラス製のドアなので、カチャカチャした感じがなく適度な重量感がある。 次に、テープセレクタのスイッチを使用テープに合わせる。 バイアス(BIAS)とイコライザ(EQ)は独立したセレクタスイッチになっている。だが、いずれも「normal」「CrO2」「metal」の3種類だけなので、自ずと組み合わせは決まってしまう。 この辺は、他のメーカーでも同様のものが多い。単に二度手間になっているだけのようには思うのだが(笑)。 |

* テープセレクタスイッチ *
また、いずれも「normal」がセンター配置になっている。 これは、K-12も最上位の5K50も同様なので、ノーマルテープの使用頻度が一番高いと考えてこのようにしたのだと思うが、音質重視のデッキならば「CrO2」をセンターにしてその姿勢を示しても良かったのでは・・・と、若干の残念感が残るセレクタスイッチである。 ドルビースイッチはEQスイッチの右にあり、必要に応じて切り替える。スイッチの形はバイアスやEQと同じである。 そして、ドルビースイッチの上にはタイマーのスイッチがあるのだが、これが、なぜこの位置にあるのか謎である。 多くのデッキでは電源スイッチの近くにあり、操作性を考えてもその方が良いと思うのだが、本製品の場合は恐らくデザインを考えてのことなのだろう。 電源スイッチ近くに配置しようとしたが、デザイン的に収まりが悪かった・・・ということではないかと推測する。 ただ、タイマー録音セット中は、このスイッチの右上(テープカウンターの右下)にある赤いインジケーターランプが点灯するようになっているので、それとの位置関係かも・・・という可能性もあるが、そうだとしたら、タイマースイッチの「rec」と「play」は逆だろーっ、とツッコミを入れたくなる(笑)。 |

* タイマースイッチとインジケーター(上右)*
* 「rec.」のスイッチ位置はインジケーターに合わせて右側の方が良いのでは? *
さて、話を戻して、録音操作に入る。 録音レベルを調整するためには、録音ポーズの状態にする必要がある。 そのためには、まずポーズボタンを押す。すると、カチッという音とともにスイッチのポーズマークの部分が点灯する。 次に、赤い録音ボタンと送りボタンを同時に押す。すると今度はガチッと重みのある音とともにヘッドブロックが上がる。もちろんテープは走行しない。 これで、録音ポーズの状態になる。 この方法は、当時のSONYのデッキと同じである。敢えて二度手間にすることで、誤操作の防止を優先させる方法である。 個人的には、他社の録音ボタン一発方式よりこの方が好きである(笑) 送り、録音、ポーズの各ボタンはマークが透過照明で光るようになっており、大変に高級感がある。 |

* 録音ポーズ状態のファンクションスイッチと録音ボリューム *
録音レベルボリュームは、1970年代のデッキらしく、ラインとは別に独立したマイク入力用のボリュームがある。 ボリュームのつまみはマイクもラインも同じ形だが、いずれもちょっと小さめである。 左右が同軸で連動しているため、左右のバランスを調整する場合は、やや力を入れてどちらかを押さえておく必要がある。 特に、外側(R)のレバーは小さい突起しか指がかり部分がないので非常に押さえにくい。左右のバランスを少しだけ変えるなど、微妙な調整をする場合はひと苦労する。これはいただけない。 さらに、左右の相対位置が合っているかズレているのかも分かりにくく、周りの目盛があっさりしすぎているために正確なボリュームの位置もつかみにくい。 レベルメーターを見ながら合わせればいいじゃないか、という考えもあるが、針式と違い12セグメントのLEDメーターで左右バランスを正確に合わせるのは結構難しい。最後は聴感で合わせるしかない。 ラジカセや入門機ならいざ知らず、高級デッキで、しかも、録音機として最も重要な部分でのこの使いづらさやアバウトさというのは、どうなんだろうと思う。 レベル合わせが済んだら、いよいよ録音開始である。 ポーズを解除するためには、再度ポーズボタンを押す。これもSONYと同じ操作方法である。 このデッキのファンクションスイッチの反応はすこぶる良い。 ソフトタッチだが、柔らかすぎず、堅さやストロークが適度にある。 重量級のヘッドブロックも力強く、小気味よく動く。 早送りや巻き戻しのタイミングも非常に良い。 本製品のファンクションボタンは、デザインもさることながら、操作性も実に秀逸である。カセットデッキの中でも1,2を争うのではないかと思う。 本製品の操作性として最後になるが、カウンターメモリーのスイッチについて触れておきたい。 本製品には、カウンター「000」で自動停止するオートリワインドとその後に自動的に再生状態となるオートプレイが装備されている。 オートリワインド機能を使うためには、フロントパネルの一番左端にある小さな「memory」スイッチをまず押す。すると、テープカウンター下の「counter memory」の赤いランプが点灯する。 そして、OUTPUTボリュームの右にあるこれまた小さい2つのAUTOスイッチのうち左の「rewind」スイッチを押す。 オートプレイの場合は、右の「play」ボタンを押す。 慣れればどうと言うことはないのだろうが、AUTOスイッチの方が押されていたとしてもmemoryスイッチが押されていないと機能しないので、誤操作が発生しやすいと思う。(そのためにランプが付いているのか?) そもそも、一連機能のボタンのうち、1つだけを離れた位置に配置するという発想には首を傾げざるを得ない。 |

* カウンターメモリー関係のプッシュスイッチと表示ランプ *
なぜこうなっているかというと、「K-12」のパネルデザインに合わせたためのようである。 「K-12」の場合、この3つのプッシュボタンは左からレベルメーターの「peak hold」、カウンター用の「reset」「memory」なので、左のボタンだけが離れている必然性がある。 要するに「K-12」とパネルの穴開け加工や部品を共通化したためなのでは?という疑いが濃厚である(笑)。 それにしても、「rewind」「play」はそれぞれ独立してON、OFFができるタイプのプッシュスイッチが使われているので、そもそも「merory」スイッチの付いている意味がない。 どうせなら、いっそ無くしてしまうか、他の何かに活用するという策はなかったものか・・・。 このように、本製品は、悉に見ていくと熟れていないと思われる部分がいくつか見受けられる。 デッキ市場に新規参入するにあたり、独自性とアイキャッチ的なデザインを全面的に打ち出そうとするあまりに滑ってしまった(orz)という結果なのかも知れない。 |
○音質
残念なことに、センダストヘッドが摩耗しているためか高域の伸びが今ひとつである。 ラインから直接モニターした音は素晴らしいので、新品時は相当良い音を出していたと思われる。 音の傾向として言えるのは、素直でさらっとした感じである。 LUX製のアンプを所持している訳ではないので、メーカーとしての音の傾向は分からないが、DCアンプ構成を売りにしているところを考えると、色づけをしない音を目指しているのではないかと思う。 |
○まとめ
メーカーとしてデッキ作りに慣れていなかったのではないか?と思われる部分はあるものの、全体的には良くできていると思うし、LUXMANらしさを出そうと苦心し、かなり力を入れて発売に踏み切ったという意欲がうかがえる製品である。 ただ、2ヘッド機で11万8千円という、他社と較べると超高級機並の価格に見合う内容のデッキなのか?・・・という個人的な疑問は若干残る。 でも、まあそれは、他社と比較するからなのであって、LUX製品ということを考えれば比較的お求めやすい価格であるし、LUXファンにとっては待望のカセットデッキであったし、十分に満足できる製品でもあったと思う。 |
○機 能
・ソフトタッチのダイレクトチェンジ型テープコントロール ・メタルテープ対応 ・LED表示式(12dot)ピークレベルメーター(normal/CrO2=-30〜+6dB,metal=-20〜+10dB) ・DC構成アンプ ・2モーター駆動 ・ドルビーノイズリダクション(Bタイプ) ・マイク、ライン独立の入力ボリューム(ミキシング可) ・オートリワインド/オートプレイ ・タイマー録再 ・出力レベルコントロール ・リモコン機能(別売有線リモコンAK-1使用) |

* デッキ裏側(真空管アンプのような通気口で換気は抜群!) *
○スペック
・ヘッド:録再(センアロイ)×1、消去(センアロイ)×1 ・モーター:キャプスタン用(FGサーボDCモーター)×1、リール用(電子ガバナ付DCモーター)×1 ・SN比:65dB(クロムテープ・ドルビーON) ・周波数特性:20〜20,000Hz(メタルテープ) 20〜19,000Hz(クロムテープ) ・ワウ・フラッター:0.04%以下 ・ひずみ率:1.2%以下(LHテープ) ・入力:MIC 0.45mV(600〜10kΩ) LINE 100mV(50kΩ) ・出力:LINE 430mV ・寸法:438(W)×126(H)×370(D) ・重量:10s ・価格:118,000円 |

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