男は黙って赤井のデッキ!?
実力派アカイのフラッグシップ機

○このデッキの特徴
AKAI(赤井/アカイ)と言えば、オープンリールデッキの時代から名を馳せたテープデッキメーカーである。 そのAKAIが1970年代半ばに発売したカセットデッキのフラッグシップモデルが本製品である。 個人的には、当時のアカイのデッキに対して、質実剛健、無骨、実力派という男性的なイメージを持っている。 デッキとしての性能や耐久性は抜群だが、失礼ながら、どうもデザインが今ひとつ垢抜けしていない・・・という感じなのである。 特に、1970年代前半まで主流だった水平型カセットデッキでは、大きなパネル面を持て余すかのような大味なデザインが多かった。 でも、まあ、逆にそれがアカイの製品カラーでもあったのだが。 しかし、本製品はちょっと違う。 同社の最初期のコンポ型カセットデッキであり、なおかつ、フラッグシップ機ということもあってか、デザイン的にかなり頑張った感があり、コンパクトでスタイリッシュな感じでまとめられている。 また、本製品は当時のフラッグシップ機だけあって、さすがに内容が充実している。 AKAI独自のGXヘッドを使用した3ヘッド構成+クローズドループダブルキャプスタン、キャプスタンはACサーボモーター+左右リールはそれぞれ専用DCサーボモーターによるダイレクトドライブという3モーター駆動、ソフトタッチオペレーション(リモコン端子付き)、ピーク/VU切替式レベルメーター、ドルビーキャリブレーション機構、マイクミキシング機能、メモリーカウンター、という当時としては超豪華仕様なのである。 定価で148,000円もしたデッキであるが、その価格も伊達ではない。 では、特徴を詳しく見ていくことにしよう。 まずは、テープトランスポート近辺から。 カセットリッドは機体の左端に位置している。 ドアには大きめの窓が開けてあり、カセットのインデックス部分やテープが回転する様子が見やすくなっている。 ドア部分はアルミ製で、「AKAI」と「GXヘッド」のロゴが彫り込まれており、高級感が漂っている。また、取り外し可能なので、ヘッドの清掃などのメンテがしやすい。 |

* カセットリッドのドア部分 *
* 大きめの窓の下にAKAIのロゴなどが彫り込まれている。*
カセットの装着は、いわゆる「正立透視型」。 このローディング方式、1970年代後半以降は当たり前になったが、本製品発売時には、まだポツポツと製品が出始めた程度であった。 対抗するように、Technics(=パナソニック)などは「キャプスタンシャフトはコマと同じだから、水平に回さないとダメ」みたいな大宣伝を行っていた時代である。(水平に回さないと、ワウフラや耐久性に問題が出るというのがパナの言い分で、実際、当時のTechnicsは、コンポ型デッキであってもテープのローディングは水平式にこだわった。正立透視型のデッキを発売したのは78年頃である。) しかし、本製品は正立透視型でありながら、ワウフラッター0.06%という、当時のトップクラスの性能を誇っている。 その性能の裏付けとなる最も大きな部分はキャプスタンモーターになるが、本製品では、キャプスタンの駆動にACサーボモーターが使われている。 一般的に、ACモーターは回転が滑らかで、比較的簡単に定速回転が得られるため、1970年代前半のデッキでは多用された。 しかし、DCモーターに較べてサイズが大きくなりがちでコンパクト化が難しく、さらに高精度化を狙ってサーボをかけると発熱もかなり大きくなるので、70年代後半以降は(筐体の大きいオープンリールデッキでは使われる例があるものの)カセットデッキではあまり採用されなくなった。 ところが、そこはAKAIである。さすが男のデッキである。他社に較べて高さの低いコンパクトな筐体の中にでっかくて発熱するACサーボモーターの機構を詰め込んでいる。熱き血潮たぎるデッキなのである(笑)。 さらに、本製品はダブルキャプスタン方式のため、慣性力のある大型のキャプスタン用フライホイール2つをこのACサーボモーターを使って定速回転させている。 そのために、残りのスペースが無くなってしまったせいか、リールの駆動は左右それぞれ専用のDCサーボモーターによるダイレクトドライブという、極めてシンプルで省スペースな設計となっている。 ただ、シンプルなのは見た目だけで、このリールモーターのサーボ機構を使って、早送りなどのスピードやバックテンションのコントロール、ブレーキングまでも行わせるなど、実は大変に手の込んだ造り込みをしている。 本機は3ヘッド式で、使用されているヘッドは、AKAIが誇るGXヘッドである。 |

* ヘッド周りの拡大 *
* 中央がコンビネーションGXヘッド、その左が消去ヘッド *
GXというのは「GLASS & X'TAL FERRITE」の略で、当時の説明によると、 「VTR用に開発されたクリスタルフェライト(単結晶フェライト)及び、VTRヘッドを作るための超精密加工技術をオーディオヘッドに応用したもので、従来使用されていたパーマロイよりも優れた単結晶フェライトを世界で初めてヘッドのコア材に使用しています。このヘッドの表面はガラスとクリスタルフェライトで構成されているため、ゴミが付着せず、磨耗を防ぎ、フォーカスフィールドにより優れた周波数特性が得られます。」 ということで、同社独自の優秀なヘッドなのである。 本製品は、録再それぞれ専用のGXヘッドを一体型のコンビネーションにしてある。 ダブルキャプスタン駆動のため、消去ヘッドはカセットの小窓から差し込むことになり、小さくつくられている。 さて、デッキ中央部に目を移すと、テープの操作を行うファンクションボタンが横一列に並んでいる。 ボタンの一つ一つは丸い形をしており、結構かわいい(笑)。 内照式だが、ボタン全体が光るのではなく、丸い輪になった細いスリットと中心の点の部分だけが光るようになっており、それがまた実にカッコイイのである。 しかも、録音が赤、送りが緑、ポーズ、FF/REWが電球色と、機能別に色違いのランプが光るのも大変良い感じである。 |

* 上の大きいボタンがファンクションボタン *
(写真を合成して全点灯状態にしてみました(笑))
ファンクションボタンというのは、デッキ操作では最も手に触れる機会が多いということもあって、そのデッキの使い勝手やデザインに最も影響を与える部分だと思う。 機械的なピアノキー式の場合は、各社さほど違いは無いのだが、ソレノイドを使ったりしてボタン配置や形状が自由にアレンジできるデッキの場合は、このファンクションボタンのデザインや配置がそのデッキの見た目の特徴を決定付けると言ってもよいくらいである。 主観的意見で恐縮だが、本製品のファンクションボタンのデザインは、数あるデッキの中でもピカイチだと思う。 しかし、そのキュート(笑)かつ秀逸なデザインのボタンを、同じ大きさ横一直線でそのままパネルに並べてしまうところが実にAKAIらしい潔さである。 余計な飾りや小細工はしないのである。 ファンクションボタンの下には、そのボタンを小型にしたような丸いボタンが、これまた横一直線に並んでいる。 これらは、各種切替スイッチなのだが、一般的なレバー式スイッチにせず、全て丸いプッシュボタンにしているところに本製品のデザイン的こだわりが感じられる。 そう思ってあらためて見直してみると、本製品にはレバースイッチは使われておらず、スイッチ類は全て押しボタン式で、しかも丸形である。 パワースイッチもイジェクトボタンもメーターの切替もカウンターメモリーも・・。 さらに、何と、カウンターのリセットスイッチに至ってはボタンの周りをことさらに丸く抉るという念の入りようである。 |

* カウンター周り(カウンター以外は丸い!)*
逆に丸くないのは、カセットドアとメーターとカウンターの表示部分くらいしかない。(勿論、デッキ全体の形は四角である。) そのメーターであるが、VUとピークチェックの切替式になっている。よって、当然ながらピークレベルインジケーターは付いていない。 メーター自体は割合大型のもので、表示も分かりやすい。 |

* レベルメーター *
メーター内に書いてある会社名は、単に「AKAI」でよさそうなものだが、わざわざ「AKAI ELECTRIC CO,LTD.」と仰々しく書いてあるところが同社らしい。 特徴の最後になるが、本製品は、アカイ独自のADR(Automatic Distortion Reduction)システムが搭載されている。 同社の説明によると、このシステムは、 「高域で録音入力がテープの飽和レベルを超えると減磁作用による歪(二階堂歪)が発生します。この歪は中低域の信号にビートを発生させて全体の音質を濁します。ADRシステムでは、高域で録音入力がテープの飽和レベルを超えないように録音イコライザーを周波数と録音レベルによって可変しており、二階堂歪を改善してます。これによって高調波成分の多い入力信号も歪まずに高域特性良く録音できます。」 とのことである。要するに歪みの低減に効果があるらしい。 このように、内容が充実したフラッグシップ機なのだが、その外見は装飾が余りないせいか割合さらっとした印象である。 天板やサイドパネルもしっかりとした木製になっており、正面のシルバーパネルと対比した感じは、あのエレガントなヤマハ製品のように見えなくもない! が、、、やはりヤマハとは違うのである、「AKAI」のロゴやパネル文字のフォントがゴツいせいなのか、スイッチ類の配置のセンスや微妙なテクスチャの違いなのか分からないが、やはり、AKAI伝統の「男のデッキ」という雰囲気がそれとなく漂っている。 部品だけ見ると結構キュートなのにもかかわらず、それに流されず、また、余計な装飾で消費者に媚びを売ることもしない渋いデッキである。 |

* 字体の力強さがアカイらしい! *

* このアングルから見るとYAMAHAのデッキに見えなくもない(笑)*
○操作性
電源スイッチは、パネル右端下部にある丸いプッシュスイッチである。 スイッチを押すと、左右メーターとカセットリッド内の照明が点灯する。 イジェクトボタンは、カセットリッドのドアの右上にある。 ドアが開く時、一応ダンパがかかっているのだが、古くなって固化しているせいか、スーッというより、ググッという感じでドアが開く(笑)。 イジェクトは、ドアが開いて最初にカセットが少し前に出た後、手前側に少し倒れるという2段式である。 |


* カセットをイジェクトした状態 *
カセットを入れ、ドアを閉めると、供給側のリールが少し回転し、テープの弛みを取ってくれる。 続いて、テープセレクタのスイッチを使用テープに合わせる。 セレクタスイッチは押しボタン2つだけというシンプルな構成で、バイアスとイコライザのスイッチが分かれていないタイプである。 ノーマルテープの場合は左を押し、ハイポジの場合は右、フェリクロムの場合は両方を押す、と至って単純明快である。 高級機になると、バイアスとイコライザを独立で切り替えたくなるところであるが、スイッチが分かれていたとしても組み合わせは決まっていて、結局スイッチが分かれている意味が無いものが多かったことを考えると、本製品は大変合理的にできていると言える。 |

* シンプルなテープセレクタスイッチ *
テープセレクタを合わせたところで、次に録音準備にかかる。 まず始めに、キャリブレーションを行っておく。 これは、再生時にドルビーが誤作動して音質に変化を与えないよう、録音入力と再生出力がイコールになるよう調整するものである。 テープの感度は、製品種類によってはもちろんのこと、テープ毎にも微妙に異なる。忠実再生のためには、全てのデッキに備えるべき機能ではあるが、録音同時再生ができる3ヘッド機以外では調整が難しいこともあり、当時は高級な3ヘッドデッキだけに付いている機能の定番になっていた。 本来はドルビー録音する際に使うものであるが、ドルビーを使わない場合でも録音中にSOURCEとTAPEのモニターを切り替えた際に音量差が無くなるため、調整しておいた方が気分的によい(笑)。 |

* キャリブレーションスイッチ(左)と調整ボリューム(右の2つ) *
調整の具体的な手順としては、まず、モニタースイッチを押し込んで「SOURCE」側にする。 「CAL TONE」ボタンを押し、LINEの入力ボリュームでメーターが左右とも0VUを指すように調整した後、モニタースイッチを押して「TAPE」側にする。 録音ボタンと送りボタンを同時押ししてテープを録音状態にする。 レベルメーターが0VUを指すよう、ドライバーを使って「REC CAL」の左右のねじを微調整する。 調整が終わったら、テープを停止し、「CAL TONE」スイッチを再度押して解除する。 続いては録音レベル調整である。 モニタースイッチを「SOURCE」側にして、レベルメーターの下にある録音ボリュームで調整をするのだが、本製品のボリュームつまみは他社製品とは少々異なっている。 録音ボリュームは回転式で2組ある。マイク入力付きなので、これは当然。 回転式の同軸ボリュームが使われる場合、ライン入力の左右が同軸で1組、マイク入力で1組、というのが普通である。 しかし、本製品の場合は何と、マイク・ラインの左だけが同軸で1組、右だけで1組となっている! つまり、マイク入力の調整は左右それぞれ内側のノブで、また、ライン入力の場合はそれぞれ外側のノブで調整するのである。 さすがに、これは慣れないとかなり戸惑う。全体の音量を上げているつもりが、右(又は左)だけしか音量が上がっていないという失敗をしてしまう(笑)。 ノブの部品には、指がかりが良いように、径の割には長めの部品が使われているため、回しにくいということはないが、デザイン的にはピノキオの鼻のようになってしまっている。 また、左右同軸ではないので、片手で左右を一遍に回すこともできないし、左右のバランスが同じかどうかを視覚的に判断することも難しい。自分の耳を信じるしかない。 まあ、使っているうちに慣れてくれば問題は無くなると思うが、なぜ、このような使い勝手に設計したのだろうか? やはり、男のデッキ、使う男の技量を試そうとしているのかも知れない! |


* 録音ボリューム *
話を戻そう。 本製品のレベルメーターはVUメーターであるが、左右のメーターの間に「PEAK CHECK」のボタンがあり、これを押すと、ピークレベルメーターになる。 説明書によると、ピークレベル表示時は、-8VUの位置(メーターの10と7の間にある赤い印の位置)がピーク0dBになり、最大ピークが0VU(=+8dBということか?)以下になるようレベル調整をするようになっている。 使い勝手としては、ピーク表示にした途端にメーターの表示(針の振れ)が小さくなるので、「あれっ?」という感じである。 ピーク表示専用メーターの場合、当然ながら、ピークのMAX(7〜10dB)をそのメーターの最大位置で表示させるので、レベル調整も、音源の最大音量部分でメーターが振り切れないようにすればよい。 しかし、本製品をピーク表示でレベル調整する場合は0VU以上に針を振らせてはいけない、ということが分かっていないと、とんでもないオーバーレベルの録音をしてしまうことになる(笑)。 当時のデッキのほとんどがVUメーター+ピークレベルインジケーター1ヶ(しかも左右共用)だったことを考えると、本製品のようにピークレベルメーター付きというのは珍しく、これだけでも高級機としての貫禄を示すには十分であった。 レベル調整が終わったら、いよいよ録音本番である。 モニタースイッチを「TAPE」に切り替える。 録音を始めるため、録音ボタンと送りボタンを同時押しする。 録音ポーズの状態にする場合は、録音ボタンとPAUSEボタンを同時押しする。ポーズの解除は再度PAUSEボタンを押すのではなく、送りボタンを押す方式である。 赤い録音ボタンの照明と、緑の送りボタンの照明が点灯し、一瞬の間の後に「コンッ」という音とともにヘッドが上がり、録音が開始される。 ボタンの押し心地はとても軽い。前述のようにボタンのデザインも秀逸で、操作することが楽しくなる。 また、ダイレクトチェンジ式のため、早送りや巻き戻しの動作から再生をする際、停止ボタンを経由する必要が無いので素早い操作が可能となり、使い勝手もよい。 なお、多くのデッキでは、巻き戻しや早送りを停止する際、ソレノイドなどを使ってブレーキをかける動作をさせているが、このデッキはリール軸に直結したモーターがバックテンションをかける仕組みになっているため、ブレーキを作動させる機械音がせずにスルッと止まり、テープもたるまない。 全般的に見て、きちんとした操作ができるように考えられていると思う。 さすがに専門メーカーの製品である。 |
○音 質
実は、これまでアカイのデッキを使う機会はほとんど無かったのだが、今回聴いてみて、意外なほど明るい音を出すので驚いた。 考えてみると、フェライトヘッドの傾向がそのまま出ているだけで当たり前なのだろうが、何となく、AKAIのデッキは野太い、厳つい音がするに違いないと思い込んでいた(笑)。 明るいが、弱々しい感じではない。しっかりと明瞭な感じの音である。 80年代のデッキのように、モニターのSOURCEとTAPEを切り替えても違いが分からないというレベルではないものの、TAPEの音の方がしっかりしているという感じである。 個人的には、こういう傾向は好きである。録音した音楽を楽しめる音だと思う。 |
○まとめ
それまでのAKAIデッキの男っぽさから一皮むけたデザインの製品である(笑)。 それでも、アカイ的力強さを訴えてくる存在感があり、さらに、見た目以上に実力のあるデッキである。 やはり、男なら黙って赤井のデッキである!(ちなみに、館長は他社のデッキばかり使っていたが・・orz) |
○機 能
・コンビネーション型GXヘッドを使用した3ヘッドシステム ・クローズドループダブルキャプスタン方式 ・ソフトタッチのダイレクトチェンジ型システムコントロール ・3モーターシステム ・VU/ピークレベル切替型メーター ・ADRシステム ・ドルビーノイズリダクション(Bタイプ)、キャリブレーション機構付き ・マイク、ライン独立の入力ボリューム(ミキシング可) ・オートリワインド ・リモコン可能(リモコンユニット RC-17使用) ・出力レベルコントロール ・タイマー録再(タイマーコントロールアダプター TA-270使用) |

* デッキ裏側 *
○スペック
・ヘッド:録再コンビネーション型(GXフェライト)×1、消去(フェライト)×1 ・モーター:キャプスタン用(CGP内蔵ACサーボアウターローター型)×1、リール用(スロットレスDCサーボ型)×2 ・SN比:55dB(ドルビー使用時+6dB(1kHZ),+10dB(5kHz以上)) ・周波数特性:30〜19,000Hz(フェリクロムテープ) ・ワウ・フラッター:0.06%以下 ・入力:MIC 0.3mV(600〜10kΩ) LINE 70mV(100kΩ) ・出力:LINE 775mV ・寸法:440(W)×142(H)×306(D) ・重量:11.1s ・価格:148,000円 |

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