学芸部に取材が入った
〜 暴かれた館長の秘密基地! 〜
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今回の学芸部だよりは、当博物館の学芸部が取材を受けた、というお話である。 取材を受けたとは言っても、学芸部内で不祥事が発生してマスコミが押し寄せてきた、というわけではもちろんない。 どういう取材かと言うと、レコードプレーヤーのカートリッジやヘッドホンのメーカーとして名高いオーディオテクニカさんのHP内に「Always Listening」というコーナーがあり、そこに掲載する記事のための取材であった。 この「Always Listening」は「音にこだわる人、モノ、コト、場所をお届け」というコンセプトで、広義なオーディオという括りでの様々な視点で記事が掲載されている。 当博物館の学芸部が対象になった理由は、担当の方が「学芸部内」を写した写真(冒頭のもの)を見て、男の隠れ家的というか、マニアックな秘密基地的な雰囲気があるということで興味を持たれたようである。 実際の記事については、こちらをご覧いただきたい。 「“私的”に至極なオーディオルーム 〜カセットテープマニアの究極系〜」と銘打って、至極マニアックというかオタク系の棲家のような学芸部が、学芸部長でもある館長とともに紹介されている。 実はこの記事を執筆したのは館長がいつもお世話になっている「ステレオ時代neo」の編集長であるS氏。要するに、今回の取材は、実はステレオ時代とつながっているのだ。 ステレオ時代では記事を書くために取材を行う側の人間である館長なのだが、今回は取材を受ける側になったので、本学芸部だよりとしては、それをネタにして取材の裏話や記事には出てこない実際の学芸部の様子などをご紹介しようと思った次第なのである。「Always Listening」の記事と併せて本稿もお読みいただければ幸いである。 そもそも、最初に取材のオファーが館長にあったのは昨年(2025年)末のことだった。 S氏からの連絡で、「Always Listening」に掲載する「オーディオルーム」として取材したいということのようだったので、驚くとともに、正直なところ大変に困惑した。 というのも、当学芸部は一般の方が思い描くようなオーディオルームの体をなしていない。 取材を受けるような「オーディオルーム」と言えば、有名メーカーのビンテージ級大型スピーカーがどーんと据え付けられていて、それをマニア垂涎の的のプレーヤーやアンプで鳴らすというのが定番というかセオリーである。そういった読者の興味を引くような機材や部屋のしつらえでなくては記事にする意味がないだろう。 ところが、当学芸部の基本システムはというと、天井付近に壁付けの小さいスピーカーがあるだけで、それを小型のアンプで鳴らしているという状態なのである。 さらに、一応CDプレーヤーはあるものの、レコードプレーヤーなんてかけらもないという有様。まあ、一応、スピーカーはYAMAHA、CDプレーヤーとアンプはSONYのものではあるのだが、それにしても、マニアから見たら「笑止千万」レベルのシステムである。 言い訳をさせてもらうと、カセット研究(笑)に特化した学芸部としては、カセットデッキと音源のCDプレーヤーがあれば十分事足りるのでこのような機材構成になっているのだ。 さらに、学芸部のモットーは「できるだけ費用をかけずに最大の効果を得る」ことにあるので、使い勝手が良く、費用対効果も高い自作品を多く使っているため見栄えも悪い。 また、レコードを使っていないのは、趣味で聴くための音源としてならレコードは良いのかもしれないが、研究のための(笑)録音再生の音質チェック用の音源としては不安定な要素が大きく、扱いも面倒なため(←これが主な理由)である。 基本的な音出しチェックは、スピーカーより厳密に確認できるヘッドホンを使っているので、壁にぶら下がっているスピーカーやアンプは、実は館長がパソコンでユーチューブなどを見るためのものだったりする(笑)。 では、そのヘッドホンのシステムはどのようなものかというと、下の写真の右上のものがヘッドホンアンプである。 |
学芸部のシステム
上段の機材がメインのシステムで、上段右がヘッドホンアンプ
上段左はその電源ユニット
下段のアンプ(SONY TA-F501)は壁のスピーカー用
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ご覧のとおりの自作品で、ハードオフで調達した中古マイクアンプの筐体を使い、スイッチ類の表示をテプラで修正しているなど、高級オーディオ機器に較べると噴飯物の見た目である(笑)。 中身を多少マニアックにご紹介すると、オペアンプを使った「classAA」タイプのものと、真空管+オペアンプのハイブリッドタイプ「HyCAA」の2回路を内蔵。切り替えて使用することができるようになっている。 classAAの方が音は良いのだが、良すぎるせいか、長く聞いていると耳が痛くなることがあるので、若干マイルドな音のハイブリッドの方に時々切り替えて聴感を整えている。 なお、SONYのロゴが貼られているが、もちろんSONY製ではなく自作品。勢いで手持ちのシールを貼ってしまったので、SONYからクレームが入りそうな逸品となっている(笑)。 ヘッドホンアンプの左にあるのはトロイダルコアトランスを使った電源ユニットで、任意の2種類の電圧を同時出力できる、電圧可変型の安定化電源である。もちろんこちらも自作品である。 2電源仕様にしたのは、オペアンプに±電源を供給するためだったのだが、ヘッドホンアンプを2回路内蔵したため、それぞれ用の電源として使っている。オペアンプの方は19Vをアンプ側のレールスプリッタで分割、ハイブリッドの方は12Vで駆動させている。 見た目はアレだが、アンプやデッキなどのヘッドホン端子の音とは雲泥の差だと自負はしているものの、所詮はヘッドホンアンプだし、しかも自作ときている。これをもってオーディオルームを名乗るのは誠におこがましい限りであろう。 そんなわけで、取材されても期待を裏切るだけで終わるのではないか、と危惧をしたのだが、学芸部内にあるカセットデッキだけを見れば結構な面子が揃っており、そこそこオーディオルームらしさがあると説得されて、困惑はしながらも取材OKをしたのだった。 ご馳走も食べ続けると飽きてくるのと同じで、正統派的なオーディオルームばかりでは読者も飽きがくるだろうから、シリーズに彩りを添えるという意味で(笑)、たまにはこういった”オーディオルーム”の紹介もあってよいのでは、と自らを納得させたのである。 しかし、取材にOKを出したのはいいが、大変に困ったことになった。 実は、普段の学芸部はとんでもない状況なのである。 S編集長はその様子を知っているので件の記事で書かれてしまっているのだが、部室内はカセットが入った多数の段ボール箱が胸の高さくらいまで所狭しと積み上がった状態で、とても他人様にお見せできるような状態ではない。 通常は館長が一人でカセットで遊んでいる部屋なので、お見せするどころか、そもそも取材の人が入れるスペースすらないのである(笑)。 年が明け、取材日程が2026年の2月下旬と決まった。 とにかく、取材日までに段ボールの山を何とかしなければならない。 少なくとも腰の高さくらいにはしないと室内を見渡すこともできない。 しかし段ボールの山を動かすためには、まず、ある程度の作業空間を室内に確保する必要がある。そのためには大掃除が必要なのだ。 それらの作業を考えただけでも気が遠くなりそうで、なかなか手を付ける決心が付かなかったが、取材を受けた以上はやらなければならない。 ようやく重い腰を上げたのが2月中旬。 まず最初の作業として、何となく捨てられずに積み上がった不用品を整理、処分することからスタート。 そして、動かせる段ボールを順次隣の部屋へ移動。 それから、通路やスペースを確保するために家具の一部を移動。 作業空間が確保できたところで、段ボールを本格移動。 段ボールの山が低くなり、部屋全体が見渡せるようになったところで、カセットの飾り棚や収納ケースなどを移動して、見えては困るものを隠したり、全体の見栄えを整えたりする。 こう書いただけでは大した作業ではないように思えるが、実際は大変で、なんだかんだで1週間以上かかった。 そして迎えた取材当日。 S編集長とサイト担当の方、そしてカメラマンの3名がお見えになった。 3名ということは事前に聞いていたので、なんとか全員が入れるようには片付けたのだが、結構いっぱいいっぱい。 さらにもう一人、後から音楽之友社のオーディオ誌「stereo」の編集の方も加わって混雑度がさらにアップ。全員立ち席(笑)という状態になってしまった。 特にカメラマンの方にとっては、狭い室内での移動や余計なものが映り込まないように撮影するのに苦労されたのではなかろうか。 取材そのものの内容は、若干脚色されてはいるものの、概ね記事に書かれてあるとおりである。 インタビューがメインで、珍しいカセットをというリクエストに応じていくつか出してみたり、それらをカメラマンがバチバチ写真を撮っていたり、という感じで2時間ほどで終了した。 記事に掲載されている写真には説明文が付けられているが、一緒に映り込んでいるのに説明のない機材が一部あり、それが気になっている読者の方がおられるのではないかと思うので、ここで少し補足説明しておきたいと思う。(そんなものは必要ない、という方が大部分だとは思うが、館長の自慢の機材なのでご容赦いただきたい(笑)。) |
館長のデスクの右側に積まれている機材
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上の写真の左列に積まれている機器を上段から紹介する。 ・SONY「TC-D5M」説明不要のカセットデンスケ最終モデル。 ・SONY「NR-335」1970年代中頃のドルビーNR(Bタイプ)アダプター(ユニット単体)。入手時は何だか寝ぼけたような音だったが、内部の電解コンデンサーを交換したらびっくりするくらいの良音になった。ドルビーBで録音済のテープを再生する場合、デッキのドルビーは使わずにこれでデコードした方が音がよいので重宝している。大きなVUメーターが動いているのを見ているだけでも楽しい(笑)。↓ |
SONY「NR-335」
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・dbx「MODEL 224」3ヘッド対応のdbxユニット。回路を4チャンネル内蔵しているので、エンコード録音しながら同時デコード再生が可能。入手時は内部の電解コンデンサーの液漏れが多発しており変な音だったが、全交換で復活した。↓ |
dbx「MODEL 224」
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・FPGAユニットを使ったデジタル信号処理方式の自家製FMチューナー。SONYのロゴが見えるが、SONYのチューナーの筐体を使っただけ。SONY製ではないが「ST-DA5ES」という、さもありなんの型番が付けてある(笑)。デジタル処理の音は素晴らしく、NHKの時報の音のきれいさは感動もの。↓ |
FPGAを使ったデジタルFMチューナー
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・BANG & OLUFSEN「BEOCORD 6500」 記事でも紹介されていたオートリバースデッキ。2ヘッドとは思えないほど音が良いのに加え、デッキらしからぬ超薄型デザインが秀逸。↓ |
BANG & OLUFSEN「BEOCORD 6500」
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・デッキセレクター(2段) TASCAMのパッチベイを改造し、端子を金メッキのRCAタイプに全交換して表と裏を直結した。デッキやアンプ、CDプレーヤーの背面端子がここにまとまって並んでいるようなものなので、多数あるデッキへの切り替えや相互録再の接続が簡単にでき、極めて便利。上下段合わせて64端子あるので、最大で16台のデッキをつなぐことができる。↓ |
デッキセレクター
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・REVOX「B215」 プロ用機であるSTUDER「A721」の民生用バージョンのようなデッキで、4モーター、3ヘッド、デュアルキャプスタン。ボリュームも含めて全てがボタン操作式になっている。入手時は片チャンネルの録音レベル不調でキャリブレーションもできなかったが、時間をかけて調査した結果、録音経路のICの不具合と分かり、交換したら絶好調になった。現在は、当博物館のリファレンス用デッキの中でもトップの信頼性を誇る。さすが、プロ用機の血筋を持つデッキである。↓ |
REVOX「B215」
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続いて写真右列の機器を上から紹介する。(一番上はオーディオ機器ではないプリンターである。) ・PHILIPS「DCC 900」 DCC(DIGITAL COMPACT CASSETTE)のデッキ。DCCはアナログカセットとの互換性を持ちながら、フィリップスが当時最高のデジタル技術を投入した驚愕の高音質デジタル録音規格である。しかし、登場時既にカセットは斜陽化しつつあり、遅れてきたヒーローという感じになってしまった。↓ |
PHILIPS「DCC 900」
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・aiwa「XK-S9000」 ”カセットのアイワ”がカセット録音を極めた到達点と言える最高峰のデッキ。消去ヘッドを使わずに録音する未使用テープ専用の機能があるのだが、キャリブレーションするとその部分は消去できないので悩ましいところ(笑)。↓ |
aiwa「XK-S9000」
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・SONY「DTC-2000ES」 DATデッキ。磁気テープを使った民生用のオーディオレコーダーとしては最高性能かもしれないと思っている。高機能でもあるが、リモコンのボタンの数が多すぎて使い切れていない(泣)。↓ |
SONY「DTC-2000ES」
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それぞれ簡単にコメントしたが、これ以上うんちくを語り出したら果てしないことになるので、この辺でやめておきたい(笑)。 当博物館では、これらの他にも20台くらいのカセットデッキを所有している。 いずれも動くように一度は整備してあるのだが、しばらく放置しているうちに不動になってしまったものもある。古いデッキというのは、時々相手をしてあげないと駄々をこねて言うことを聞かなくなってしまうのだ(笑)。 手持ちのカセットデッキについては、「カセットデッキ展示館」で順次ご紹介していこうとは思っているものの、全てをご紹介できるのはいつになることやら。 カセットの博物館であるにもかかわらず、記事の方も本稿もなんだかカセットデッキの方がメインになってしまった。 まあ、テープの方は博物館で展示しているので、そちらをご覧いただきたい。 ところで、記事やその写真ではうまくごまかしてもらっているのだが、SONYのエルカセットデッキ「EL-7」と、ナカミチのオートリバース機「RX-505」は、実は取材のときには動かなかった。 「EL-7」は、早送り、巻戻しはできるものの、再生時にテープが不動。 「RX-505」は、イジェクト時やオートリバース時に前にせり出してくる「カセットコンパートメント」の機構が不動で、動かないため手で引き出したところ、今度は押しても中へ戻らなくなってしまった(泣)。 2台とも、修理を試みるためには、上に積んであるデッキやテレビを移動してから引っ張り出す必要がある。その作業を想像しただけでも、また気が遠くなりそうである。 しかし、放置しておくわけにもいかない。 取材が終わったら、一時隣の部屋に移動した段ボール類を早々に元に戻そうと思っていたのだが、戻してしまうとデッキを引っ張り出す作業がほぼ不可能になるので、この際、段ボールの戻しは後回しにして、修理作業を行うことにした。 EL-7の方のトップカバーを開けて見たところ、キャプスタンベルトが切れていたのが原因だと分かった。新しいゴムベルトを装着したところ無事復活した。 |
「EL-7」の内部
写真はキャプスタンベルト掛け替え後
左下の大きいモーターがキャプスタン用のもので、その下左右にあるのがキャプスタンのフライホイール。余談だが、以前の整備で基板上の信号系の電解コンデンサーを交換している。
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「RX-505」の方は、カセットコンパートメントの出し入れを駆動させる機構にモーターから動力を伝えるゴムベルトが劣化して切れていた。 こちらも新しいベルトを装着して復活した。 |
「RX-505」の内部
中央部分の下側にカセットコンパートメントを出し入れさせる機構があり、そのプーリーとモーターをつないでいるゴムベルトが切れていた。
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どちらもベルト交換程度で済んで良かった。 古い機械なので、入手不可能な部品に不具合が発生すると即詰んでしまうのだ。 という訳で、両機ともめでたく動作したところで元の定位置に戻し、さらに、隣の部屋の段ボールやら家具やらも元に戻した。 こうしてようやく元の生活、じゃなかった、元の学芸部に無事戻ったのだった。 以上、今回は「学芸部に取材が入った」というお話であった。 サブタイトルは「暴かれた館長の秘密基地!」だったが、取材で暴かれたというより、館長自ら暴いてしまったような気がする(笑)。 |
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