値札シールを剥がす
〜 お宝の瑕を取り除く 〜
思えば、当博物館の展示品は随分と増えたものである。 手持ちのカセットを公開しようと思って始めたサイトなので、展示品がここまで増えるとは正直思っていなかった。 館長が開館当時から所持しているカセットは展示品のごく一部となり、ほとんどは開館以降に館長が買い求めてきたものになった。(御寄贈を受けた物もある。) 買い求めたと言っても、古いカセットが普通に売られている訳ではないので、ネットオークションやフリーマーケットなどで調達しているのだが、なかなか簡単には手に入らない。 苦労して入手できたとしても、汚れたり傷が付いていたり、未使用品であってもシュリンクが破れていたりするものが多い。 中でも、未開封の新品ではあるのだが値札シールが貼られてしまっている、という残念なものが結構多い。 シュリンク自体はほぼ無傷の良品であるにもかかわらず、値札シールが表面のど真ん中あたりにベタッと貼られている・・・。 さらに、この値札に書かれている値段がまた問題で、定価から多少値引きされたくらいであればまだ許せるのだが、「¥100」とか、ひどいものでは「¥50」とかのカセット末期の投げ売り価格が書かれているのは許し難く(笑)「何が何でも剥がしたい!!」という気にさせられるのである。 しかしながら、このシール、剥がそうとしても素直にペロッと剥がれる物は少ない。 値札シールというのは、元々簡単に剥がすことができないようになっているということもあるが、シールが貼られた実売時から既に10年〜数十年経っているため、表面の紙の部分が風化していたり接着剤の部分が固化していたりして、剥がそうとしてもなかなか一筋縄ではいかない。 そこで今回は、新品未開封カセットのシュリンクに貼られた値札シールをきれいに剥がす方法をご紹介する。 ご紹介するのは、普段館長が行っている方法であるが、シールの状態によってはきれいに剥がれない場合や、剥がし作業によってシュリンクにダメージを与えてしまう場合もある。 この記事を見てシール剥がしをやってみようと思っている方には、剥がし作業にはリスクが伴うことを承知の上、あくまで自己責任において作業をしていただくことをお願いしたい。 それでは、順を追って説明していこう。 |
(手順1)剥がすべきか否かを判断する
「シールを剥がす方法」ということで始めたが、コレクション対象のカセットの場合、実は「剥がさない」という選択をすべき場合がある。 値札シールが貼られているカセットより、何もないものの方が一般的にコレクション的価値は高いので、シールを剥がそうと思うのは当然なのだが、実は、剥がす作業によって逆に価値を下げてしまう場合もある。 例えば次のような場合は、作業を始める前に一考した方が良い。 |
(1) |
シュリンクが透明なセロハン製などの場合 |
セロハンは、プラスチックフィルムとは違い、そもそも薄くて破けやすい大変デリケートな素材である。 さらに、セロハン製シュリンクのカセットは1970年代までの製品に多く、製造後長期間が経っている。 古いセロハンは、ちょっとした振動でも裂け目が入ったり、崩壊することさえある。表面をクリーニングするだけでも細心の注意が必要なくらいである。 シュリンクやシールの状態によっては剥がすことも可能だが、剥がし跡が残ることもあり、一般的にセロハンシュリンクに貼られたシールをきれいに剥がすのは極めて難易度が高くリスクも大きい。 よって、よほどの自信がない限り、セロハンシュリンクのシール剥がしは最初から諦めた方が無難である。 それに、70年代の製品ともなると、当時の実売価格を表す古色蒼然とした値札が貼ってある方がリアルで、コレクションとしての価値は上がるかも知れない、という考え方もできるのである。 なお、1980年代以降のカセットであっても、初期のものにはセロハンではないが強度の弱いフィルムを使っている製品があるので、こういうものについても作業に入る前にリスク検討をした方がよいだろう。 |
(2) |
シュリンクが劣化していたり、シールの周囲が傷んでいるなど、剥がし作業によってシュリンクをさらに痛めてしまう恐れがある場合 |
1980年代以降のカセットになるとシュリンクの素材ががプラスチックのフィルムに変わり、強度そのものは高くなるのだが、製造から長期間経っていることには変わりなく、保存状況によってはシュリンクが劣化していたり、小さな穴が開くなどの破損が見られたりする。 特にシール周辺が傷んでいると、剥がす作業によって破れたり傷が広がるなどの致命的なダメージを与えかねないので、この場合も作業に入る前にリスクを検討する必要がある。 とにかく、未開封カセットの価値を上げようしたシール剥がしでダメージを与え、かえって価値を下げてしまうなどというのは本末転倒なので、絶対に避けなければならない。 仮に、作業を開始した後であっても、途中でダメージを与えそうな恐れが出てきたら、その時点で潔く作業を諦め撤退する、という勇気も必要である。 もっとも、その場合は、シュリンクにダメージは無くても剥がしかけのシールが残るため、見た目が悪く「最初から何もしない方がよかった・・・」と悔やむことになりかねない。 やはり、作業前のリスク検討が重要である。 |
(手順2)軽く水拭きする
さて、それでは実技に入ることにする。 今回は、この「TDK SF」の右上に貼られている黄色い値札シールを剥がしてみることにしよう。 カセット末期の長期在庫投げ売り時のものか、「50円」という屈辱的な価格の値札である(笑)。 |
50円! 確かにお買得品だ(笑)。
実際に剥がす作業に入る前に、カセット全体を軽く水拭きする。 シュリンクにダメージがある場合、この作業でさらにダメージを与えないように注意するのは勿論だが、この程度の作業でダメージが広がるようなら、剥がし作業そのものを諦めた方がよいかも知れない。 水拭きに使うのはタオルのようなもので構わないが、館長が通常使っているのは、100円ショップでも売っているマイクロファイバークロスである。 毛足が短く、タオルに較べて表面が滑らかなので、擦ってもシュリンクへのダメージが少ない。 |
館長愛用のマイクロファイバー「厚手雑巾」(笑)
シール部分を拭く際には力を入れてゴシゴシ拭くのではなく、シールの紙の部分に水分を与えるように軽く押さえながら拭く。 この時、シールの接着剤の部分を暖めて柔らかくするため、冷たい水ではなく熱めの温水を使うとよい。 拭き終わったら、シールの角の部分を爪で少し持ち上げてみる。 接着剤が柔らかければ少し持ち上がると思うが、接着剤が古くて固化している場合は難しい。 |
片隅をちょっとだけ持ち上げてみる。
(この写真は剥がし過ぎ。こんなに剥がさなくて良い。)
接着剤の固化で持ち上がらない場合、より熱めの温水で湿らせたタオルをしばらくシールに当ててから再度試してみる。 しかしそれでも状況が変わらないようであれば、接着剤がシュリンクに固着しているため、シール剥がしが失敗する可能性が高い。 この場合、剥がし作業は諦め、勇気を持って撤退するのが吉である。 |
(手順3)手で剥がせる部分をできるだけ剥がす
シールの隅が持ち上がり、接着剤の固化も見られないようであれば、シール全体を剥がすことができる可能性が高いので、持ち上がった隅の部分を上に引っ張りながら、ゆっくりと剥がせるところまで剥がしてみる。 運が良ければ、これでかなりの部分をきれいに剥がすことができるが、シュリンクに負担が掛かる作業なので、決して無理をしてはいけない。 剥がしている途中でシールが切れてしまったら、深追いせずに別の隅の方からあらためて試してみる。 きれいに剥がす必要はない。シールの紙の部分が少しでも剥がせれば良しとする。 とにかく、シュリンクを痛めない範囲で、できるだけ取り除くことができればよい。 |
シールの左側から剥がしてみた状態。
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右側からも剥がしてみる。
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表面の黄色い部分だけが剥がれた状態。
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さらにできるだけ剥がす。
↓
シールが比較的新しかったためか、かなり剥がすことができた。
(手順4)残った紙の部分を取り除く
この手順は飛ばしてもよいのだが、紙の部分をできるだけ取り除いておくと、次の「手順5」の作業が楽になる。 温水で湿らせたタオルで紙の部分を擦り、紙の繊維をタオルで絡め取るように取り除く。 紙を予め湿らせておくと楽に擦り取ることができる。 シールの接着剤部分が柔らかければ、紙だけではなく接着剤部分も一緒に取ることができるが、あまり強く擦ると、接着剤をシュリンクになすり付けたり、シュリンクに傷を付けてしまうこともあるので、絶対に無理をしてはいけない。 ほぼシールの接着剤の部分だけになったら次の手順に進む。 |
濡れクロスでさらにここまで剥がせた。
(白い部分が残った接着剤)
(手順5)接着剤の部分を取り除く
ここまで来たらもう一息、と言いたいところだが、実はこれからが一番大変な作業となる。 カセットのコレクション的価値を高めることができるか否かは、ひとえにこの残った接着剤を剥がす作業にかかっていると言っても過言ではない(笑)。 ここで使う道具は「セロテープ」である。 セロテープの粘着力を使って接着剤を剥がすのである。 館長のこれまでの経験では、適度な粘着力とテープ素材の強度やしなやかさがあるニチバン製「セロテープ」が最も作業性が良いと思っている。 |
「セロテープ」
(100円ショップにて購入。日本製。)
やり方は次のとおり。 (1) セロテープを適当な長さ(5pくらい)に切る。 (2) シュリンクに残った接着剤部分の上にセロテープを貼る。 (3) セロテープと接着剤がくっつくように上から指で押す。 (4) セロテープを剥がす。(シュリンクを傷めないように) (5) (2)〜(4)の作業を繰り返す。 (6) セロテープの粘着力が弱くなってきたら、また(1)から始める。 (7) 以上を繰り返す。 (4)の作業では、セロテープを剥がす際にシュリンクも引っ張ることになるので、シュリンクを傷めることが無いように細心の注意を払う必要がある。 繰り返す回数は、接着剤の状態によるので一概には言えないが、運が良くて数回、場合によっては数十回必要になることがある。 作業に慣れてくると、上記(3)で押す指の力の加減や(4)の剥がす早さや方向などが段々と分かってきて作業が効率化していく。 最初のうちはなかなか取れないが、ある程度繰り返していると、急に貼がれ始める瞬間が来る。その後は接着剤の部分が目に見えて小さくなっていくので、モチベーションも上がる。 とにかく、「苦労は必ず報われる」ことを信じてひたすら繰り返すのだ(笑)。 |
作業を繰り返し、かなり剥がれた状態
(ここまで来るとモチベーションも上がる。)
↓
ほぼ完璧に剥がれた状態。
綺麗に取れたように見えても、うっすらと接着剤が残っていることがあるので、最後は、指の腹でシュリンクの表面を撫ぜてみて、引っかかりやざらつきが無いことを確認する。 (手順6)仕上げ
作業完了! |
○ まとめ
今回の事例では、シールが比較的新しかったためか、手順5の作業回数も少なくて済み、比較的簡単に、しかもきれいに剥がすことができた。 もっと簡単に剥がせる方法を期待して読み始めた方には、無駄に文章が長いだけで大した内容では無く、拍子抜けだったかも知れない(笑)。 シール剥がしの方法については他にも様々な方法があり、館長もこれまでにいろいろ試してきたが、結局、今はこの方法に落ち着いている。 最後に、繰り返しになるが、値札シールを剥がす場合はシュリンクを傷めないよう、くれぐれも慎重に作業してほしい。 なお、この方法で剥がし作業をして失敗した場合でも、館長は一切責任は負えないのでそのつもりで(笑)。 作業はあくまで自己責任でお願いする。 |
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